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2018.01.28

都戸利津『嘘解きレトリック』第6-8巻 探偵の正体、少女の想いの正体

 人の嘘を聞き分ける能力を持つ少女・鹿乃子と貧乏探偵・祝左右馬のコンビによる昭和探偵物語もいよいよ佳境であります。物語の焦点はいよいよ左右馬の周辺に移っていくことになります。

 左右馬の助手を勤めるうちに、己の能力を少しずつ肯定的に受け止めることができるようになった鹿乃子。しかしそんなある日、左右馬が殺人事件の容疑者として捕らえられることになります。
 何者かの手紙に呼び出され、とある旅館に泊まった左右馬。しかし何事も起きず旅館を出たその直後に、彼が泊まっていた部屋から死体が発見されたというのですが……

 というわけで第7巻のメインとなるのは、鹿乃子が左右馬の濡れ衣を晴らすために奔走するエピソード。探偵不在の状態で助手が探偵役を務める――というのは探偵もののシリーズでは定番ではありますが、今回驚かされるのは、前巻に登場した「史郎」が鹿乃子の協力者となることでしょう。

 とある名家の跡取りを探す中で、跡取りを騙って現れた「史郎」。人当たりのよい美青年ながら、得体の知れぬところを持つ彼は、何と鹿乃子が嘘を見抜くことができることを知っており、そして協力を申し出たのです。
 彼の思惑はどこにあるのか、何故鹿乃子の力を知っているのか。そして何より二人は事件の謎を暴き、左右馬を救えるのか?

 ミステリとしては小粒ながらトリックも面白く、そしてラストの左右馬と鹿乃子のやりとりが楽しくも温かいものなのが実にいいのですが――しかしそれ以上にラストで「史郎」が語る、彼と鹿乃子のある共通点に度肝を抜かれるエピソードであります。


 そして続く第7巻から第8巻にかけては、先の事件が自分の実家に絡んでいたこと、そしてその企てに「史郎」自身が絡んでいたことを知った左右馬が、「史郎」の正体を知るため、兄・篤嗣を訪ねることになります。

 左右馬の実家が実は大富豪というのは、ある意味お約束、そして彼が家を出た理由と篤嗣との確執も予想できるものではあります。そして実家で事件が、というのも定番ですが――しかし面白いのは、それが篤嗣の妻・澄子にまつわる事件であることでしょう。
 澄子に近づき、告白といってもよいような言葉をかける若い男。しかし鹿乃子はその言葉に嘘を感じ取ります。その真実を追って、左右馬と鹿乃子は、篤嗣や澄子が参加する園遊会に紛れ込むことになるのです。

 周囲からは「おかめ」「家柄だけが取り柄」と揶揄される澄子。篤嗣もまた彼女に対してそっけなく振る舞うのですが――ここで澄子の事件が進展していくにつれ、彼の「真実」をも明らかになるという構成が巧みの一言。
 特に澄子に対する篤嗣の「家柄以外を望むのはおこがましい」という言葉が、全く意味を変えて浮かび上がる結末には、驚かされたりニッコリさせられたり、であります。


 さて、こうして左右馬自身の事件もひとまず落着したのですが――しかし第8巻の後半では、思わぬ波乱が鹿乃子と左右馬を(特に鹿乃子を)襲うことになります。

 ある日、二人の事務所に突然転がり込んできた美女・レイコ。事務所に居候することになった彼女はその美貌と明るさでたちまち周囲を引きつけるのですが、しかし鹿乃子の耳に聞こえるその言葉は嘘だらけなのです。
 そして鹿乃子も、レイコの「左右馬先生が結婚したらどうする?」の言葉に鹿乃子は動揺しまくる羽目に……(その言葉に、左右馬が誰かと結婚する夢を見てしまった翌朝の鹿乃子の表情が絶品!)

 しかしこのレイコのちょっと意地悪な言葉は、実は彼女自身に向けられた言葉であって――と、レイコの正体を追う左右馬と鹿乃子がたどり着いたその真実が実に切ない(人によってはその真実には一発で気付くかもしれませんが……)

 しかしそのその残酷な真実を前に、ただ嘘をつき続けるしかなかったレイコに対する左右馬の言葉が、これまた素晴らしいのです。
 そこで語られるのは、人は何故嘘をつくのか、つかなければならないのかという、人が嘘をつくことの意味。そしてそれは、本作で描かれてきた嘘と真実の数々をここに来てもう一度見つめ直すことにほかなりません。

 レイコが最後に選んだ道と、そこに込められた真実と嘘を浮かび上がらせる、本作ならではの、本作でなければ描けない結末も本当に素晴らしいのですが――しかしラストでこれまた本作ならではの形で爆弾が大爆発!
 鹿乃子が知ってしまった「嘘」が、この先彼女に何をもたらすのか――おそらくは残り2巻、その結末が、もう楽しみで楽しみでならないのであります。

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