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2018.01.27

中村理恵『JIN−GAI』 人気歌舞伎役者が挑む怪奇の事件

 化政時代に華やかに開いた江戸の大衆文化――その中でも花形中の花形というべき人気女形が次々と引き起こされる奇怪な事件に挑む、連作怪奇捕物帖といった趣向の物語であります。

 江戸三座の一つ・中村座でも一番人気の女形・香川蘭之丞。彼が舞台で藤娘を演じる最中、突如頭上から血しぶきとともに男の死体が落下、場内は騒然となります。
 そこに駆けつけたのは、自称岡っ引き見習いの少女・風花と、蘭之丞の友人の医師・志賀温斎。死体は蘭之丞への差し入れの菓子を裾分けされた小屋の下働きであったことから、蘭之丞を狙った犯行と思われたのですが――その騒動の渦中で、蘭之丞の背中に、カギ爪の傷跡があることを知る風花。

 それこそは、江戸を騒がした盗賊団の首領・紅蜥蜴が犠牲者に残すという傷――実は蘭之丞には、元は武士の生まれながら紅蜥蜴に両親を殺されて家を失い、役者となった過去があったのです。
 自分も岡っ引きであった父を紅蜥蜴に殺されていた風花は、蘭之丞とともに紅蜥蜴を追おうとするのですが、手酷くはねつけられて……


 という第1話から始まる本作。美女と見紛うほどの美しい容貌とは裏腹に性格はオレ様な蘭之丞、少女ながらに岡っ引きを目指して様々な事件に首を突っ込む風花、蘭之丞のファン第1号を自認する(そしてちょっと妖しい雰囲気の)温斎のトリオが、4つの怪事件に挑むことになります。

 歌舞伎役者が主人公という物語のスタイルは決して珍しいわけではありませんが、本作の場合、蘭之丞は両親を亡くした子供時代に蔭間茶屋に拾われ、そこから這い上がってきたという設定はなかなかに生々しく、印象に残ります。
 特に第1話では、その名の通り紅色の蜥蜴の刺青を持つという紅蜥蜴を見つけだすため、様々な男に肌を許していると語られるのにも驚かされるのです。

 そしてその後も、歌舞伎役者としての蘭之丞、そして歌舞伎というある種の幻の世界を舞台としたエピソードが続きます。

 お練りの最中の蘭之丞が、何者かに芝居で使う「人魂」を投げつけられた事件の背後に、千両役者を夢見る男の哀しい想いが浮かぶ第2話。
 演じたものは鬼女に取り殺されるという鶴屋南北の「化野恋道行」を演じた蘭之丞の前に謎の女中が現れ。蘭之丞たちが鬼女の潜む屋敷に招かれる第3話。
 「仮名手本忠臣蔵」の舞台に立つ蘭之丞に対し、少年が父の仇討の助太刀を求めてきたものの、しかし当の父は……という第4話。

 オカルティックな怪異譚あり、人情譚ありと、各話の趣向は様々ですが、第2話以降のエピソードは、悩める人々(人以外も)を蘭之丞の「芸」が、芸に対する「覚悟」が救うという趣向は面白いと思います。
 特に第2話のラスト、華やかな世界を夢見るあまり死霊に憑かれた男を、衣装も装飾もなしに鎮魂の舞いを踊ってみせることで、死霊も男の魂も同時に救うくだりは、本作ならではのものと感じます。
(それを受けて温斎のセリフもなかなかよいのです)


 ただ残念だったのは、ある意味本作の中ではメインの物語とも言える第1話が、ミステリかと思えば実は――という展開だったこと。
 普段であれば大歓迎の趣向なのですが、描写が今ひとつだったこともあり、展開的に意外性というよりもちょっと安直さを感じさせられてしまうものだった、というのが正直なところでした。

 あるいは本作がもう少し続けば、この辺りの印象も変わったのかもしれませんが、本作は全4話で完結。風花の存在が蘭之丞にとっての救いになることが仄めかされていただけに、少々もったいない気がする――というのも正直な気持ちではあります。

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