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2018.01.31

恒川光太郎『金色機械』 時を超え、人の嘘と真を見つめるもの

 デビュー以来、奇妙な味わいと世界観の物語を描いてきた作者の初の時代小説にして第67回日本推理作家協会賞受賞作――謎の存在・金色様を中心に、様々な人々の想いと生き様が絡み合い、人の世の善と悪、喜びと悲しみを浮かび上がらせる、非常にユニークな物語であります。

 江戸時代後期、某藩の城下で隆盛を誇る舞柳遊郭――その創業者の男・熊悟朗の前に、ある日現れた遊女志望だという女・遥香。
 幼い頃から人の殺意や悪意を見る能力を持つ熊悟朗の目にも得体の知れぬ者を感じさせる遥香は、自分にも常人にない能力があると語ります。

 幼い頃から、生き物の命の存在を感じ取り、それを痛みもなく奪う――すなわち死に至らしめる力を持っていた遥香。医師の父の頼みで、不治の老人たちを安楽死させるようになった彼女は、ある日自分が、父の実の子ではないことを知ります。
 かつて何者かによって虐殺された流民たち――遥香は、母に守られてその事件を生き延びた赤子だったというのです。

 その事実を教え、自分に乱暴しようとした破落戸を殺したこと、そして老人を安楽死させるのが耐えられなくなったことから、一人山に入った遥香。
 そこで彼女は、老人たちから「金色様」と呼ばれる存在と出会うことになります。上から下まで金色のつるりとした鎧とも皮膚ともつかぬものをまとい、男とも女ともつかぬ存在。あらゆる物事を知り、長き時を生きてきた存在と……

 そして金色様の存在は、熊悟朗もまた知るところでした。幼い頃に父に殺されかけ、逃げた先で彼が拾われた、「極楽園」とも「鬼御殿」とも呼ばれる山賊たちの根城――その首領・半藤剛毅の傍らには、彼の一族に代々仕えるという金色様の存在があったのです。
 しかし金色様と因縁を持つのは二人だけではありません。正義の権化のように悪と戦う同心、鬼御殿から逃げ出した遊女、半藤剛毅のひ弱な嫡男――様々な人々の運命が金色様を中心に繋がりあい、結びついた先にあるものは……


 時代と場所を次々と変え、そのたびに主人公となる人物を変えて物語られる本作。その魅力の最たるものは、その様々な角度から語られる断片が、徐々に結びつき、繋がりあうことで、巨大な物語を浮かび上がらせるという点にあると言えるでしょう。
 一見全く関係ないかに見えた要素が繋がりあい、意外な真実を見せるのは、よくできたミステリに通じるものすらあります。

 そして、その実に数十年、いや数百年にも及ぶ人と人との結びつきが生み出す一種のダイナミズムの中心に居るのが金色様――決して死なず、朽ちず、無尽蔵とも思える知識と力を持ち、時を越えて在り続ける存在であることは言うまでもありません。
 時に狂言回しとして、時に物語の主人公の一人として、そして何よりも観察者として、金色様は在り続けるのであります。

 そう、金色様の存在を評するとすれば、観察者というのが最も正しいのかもしれません。金色様は自分では判断しない――基本的に主に仕え、その命じるままに振る舞う者なのですから。
 そしてそれだからこそ、金色様のみが、物語に無数に散りばめられた人間の生の諸相、すなわち善と悪、嘘と真実(ちなみに作中で、真実を語った者の命を奪う雪女が、何度かモチーフとして描かれているのが興味深い)を見届け、見抜くことができる……

 というわけでは実はないのも面白い。あくまでも金色様は観察するのみ、人間の価値判断とは無縁の存在なのであります。
 そしてそれが本作を貫く一種の無常感と、それと背中合わせの人間の必死さ、懸命さと、その源である生命力を際だたせるように感じられます。(そもそも、本作において最も重要な真実は、金色様さえ知ることはないのですが……)


 終盤に至り、やや突然にユーモアやアクションが飛び出してきた感はありますし、そして何よりも文字通りのデウス・エクス・マキナとして金色様が機能してしまっている印象は否めません。

 それでも、物語を包む謎と嘘の皮が一枚ずつ剥がれ、そしてその先に人間の生の真実の姿が見えるという構造は極めて魅力的です。
 そしてその先に微かに見える、金色様が語るところの「テキモミカタモ、イズレハマジリアイ、ソノコラハムツミアイ、アラタナヨ」という希望の存在もまた。

 もっともっと金色様とともに、物語を、人間の生を見ていたい――そんな気持ちにさせられる、不思議な物語でありました。

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