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2018.01.25

ブラム・ストーカー『七つ星の宝石』 古代の魔女王を巡る謎と怪奇と「愛」

 『吸血鬼ドラキュラ』で怪奇小説家として不朽の名を残したブラム・ストーカーの知られざる作品――20世紀初頭のイギリスを舞台に、古代エジプトの忘れられた女王の遺物が奇怪な事件を引き起こす、長編オカルトホラーの佳品であります。

 ある晩、突然の急報に叩き起こされた青年弁護士マルコム・ロス。最近パーティーで知り合ったマーガレット嬢が、父であり、エジプト学の権威として知られるトレローニー氏が、何者かに襲われて倒れために助けを求めて来たのです。
 密かに憎からず思う美女の頼みにトレローニー邸に駆けつけたロスが見たのは、密室となった自室で腕に傷を負って倒れたトレローニーの姿。しかも傷の深さはさほどでなかったにもかかわらず、彼は深い昏睡状態となっていたのです。

 駆けつけた医師や刑事たちとともに調査に当たるロス。しかしトレローニーが、この時を予想していたかのようにマーガレットに対して奇妙な指示書を残していたことから、ロスたちは、不寝番をすることになります。
 しかし、不寝番の者たちも原因不明の催眠状態に陥り、再びトレローニーが襲撃されるなど、なおも続く不可解な事件。そんな中、トレローニーの友人であり、彼の求めでエジプトに向かっていたという男・コーベックが屋敷に現れます。

 トレローニーと共に、かつてエジプトの魔術師の谷と恐れられる場所で、数々の魔術を操り、歴史上から抹消された女王テラの墓を訪れたとロスに語るコーベック。
 そしてテラのミイラと、一緒に埋葬されていた北斗七星が彫られた宝石は、この屋敷に運び込まれていたというのです。

 その魔力で死後の再生を計画していたというテラを現代に復活させようとしていたトレローニー。その企てと、一連の怪事には関係があるのか。そしてマーガレットとテラの容貌が酷似しているのは果たして偶然なのか。
 事件は思わぬ方向に展開、恐るべき最後の実験の先に待つものは……


 ミステリアスな導入部から始まり、丹念な状況説明と数々の事件の積み重ね、それらを支える客観的な証拠――と、『ドラキュラ』にも通じる手法で描かれた本作。
 ロスの一人称で語られること、そしてロスとマーガレットのロマンスが物語上で大きなウェイトを持つことから、受ける印象はいささか異なるかもしれませんが、その独特のリアルさは、今読んでも十分に魅力です。

 特に前半部など、舞台はほとんど屋敷内に限定されている(というより本作、回想シーンを含めても主な舞台がほとんど3、4ヶ所に留まるというのが凄い。この辺りは演劇人としてのストーカーの手腕でしょうか)にもかかわらず、息詰まるようなサスペンスと怪奇性に圧倒されること請け合いであります。

 その一方で、後半に入るといささか物語の趣が変化し、思索的な部分や解説的な部分が多くなることで――その中には特に現代人からみれば科学的にどうかというものもあり――少々違和感を感じないでもありません(上で述べたロマンス描写もいささかくどい)
 そしてその先に待つ結末も、少々、いやかなり意外なものであって――本作に厳しい評価を下す向きが少なくないのも理解できるところではあります。


 しかし、『ドラキュラ』と同じく異国から、そして長き時を超えて現れた魔人と現代人の対峙と描きつつも、本作においてはその現代人側のベクトルが逆方向を向いているというのは、非常に興味深く感じます。
 そしてその関係性を、両者をそれぞれ代表する二人の女性――それも外見はほとんど同一の――「愛」の存在を以て描き出すというのも、実に面白い(もっとも、この点が難解さに繋がっているきらいもあるのですが)。

 この「愛」はそれぞれに異なる意味を持つものではあり、テラ女王のそれは、一般にいうものと大きく意味は異なります。しかしついに姿を現したテラの意外な姿をも含めて考えると、この女性たちの持つロマンチシズムと、男性たちの傲慢ですらある合理性のすれ違いが、あの結末を招いたのではないかとすら、考えてしまうのです。

 もちろんこの着地点は、もちろん私の勝手な想像ですし、やはりいかにも怪奇小説然とした前半からは、遠く離れたものではあるかもしれませんが……


 ちなみに本作は後に別バージョン(短縮版)が発表され、そちらではほとんど全く正反対な結末となっているのも面白い。本書にはそちらの結末も併録されており、読み比べてみるのもまた、大いに想像力を刺激されるところであります。


『七つ星の宝石』(ブラム・ストーカー 書苑新社ナイトランド叢書) Amazon
七つ星の宝石 (ナイトランド叢書)

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