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2018.01.16

友藤結『影に咲く花』 影獣との戦いの中で結びつく二人の救い

 時は江戸時代初期、人々は「影獣」と呼ばれる物の怪に苦しめられていた。公儀の手も及ばぬ中で影獣と異能を以て戦う影祓師を父に持つ少女・樋花は、ある日、武力で以て影獣と戦う影狩人の青年・黒門鶫と出会う。凄まじい力を持ちつつも、体内に救う影獣に苦しむ鶫に対して樋花は……

 少女漫画の中の時代伝奇漫画を探す中で出会った作品――奇怪な魔物が跳梁する世界での一風変わったボーイ・ミーツ・ガールを描く物語であります。

 その名の通り、野獣の影のような姿を持ち、人間を襲う凶暴な「影獣」が出没し、多くの被害が出ていた江戸時代初期。
 幕府や藩が対処のために置いた同心たちによる駆除も限定的なものでしかなく、その手から漏れた地で人々を救うのは、影祓師や影狩人といった在野の者たちでした。

 影獣との戦いの中で帰らぬ人となった影祓師の父を持つ樋花は、父の仇である影獣たちに無鉄砲にぶつかるものの、その力はまだまだ影獣を一瞬押さえるくらいの微弱なもの。その彼女を危機から救ったのは、流浪の影狩人・鶫でありました。

 実は幼い頃に心を食らう影獣に襲われ、姉が身代わりとなったことで、己の心を保ったまま影獣をその身に宿す鶫。いつ己の中の影獣に取って代わられるかわからぬまま戦いを続ける鶫を前に、樋花はある決意を固めて……


 という第1話に始まり、全3話構成の本作。以降、鶫の中の影獣を抑えるために共に旅に出た樋花が、彼の力になるべく奮闘する第2話。鶫を影獣として付け狙う影狩人の出現に揺れ動く樋花の心を描く第3話と、物語は続いていくことになります。

 (一見)無愛想な戦士と、一本気な少女のペアというのは、これは鉄板の組み合わせ。こうしたシチュエーションでは、ほとんどの場合、戦士が少女を庇護しながらも、少女の存在に心を救われて――というのが定番ですが、本作においては、鶫が文字通りの意味で心を救われるというのが特色でしょう。

 その身に巣くった影獣に、いつ心を喰らい尽くされ、体を奪われるかわからない鶫(この辺りの設定を掘り下げた第3話はなかなかに興味深い)。
 休んでいる時も寝ている時も、心の安まらる時のない彼の唯一の救いは、樋花が持つ影祓師としての能力――影獣の力と動きを抑える力なのであります。

 そしてまた、樋花にとっても鶫の存在は救いとなります。
 影祓師であり尊敬していた父を喪ってから、己の身の危険も省みず、影獣に立ち向かってきた樋花。その半ば自暴自棄の行動の理由は、自分の無力さに対する苛立ちと、そんな自分が誰にも必要とされないのではないか――その想いからであります。

 そんな彼女を指して、作者自らが「強気ネガティブ主人公」と評するのは、さすがと言うべきか非常にマッチしているのですが、そんな彼女にも、いや彼女にしかできないこと――言うまでもなく鶫の影獣を抑えること――があるというのは、大いなる救いなのであります。

 一歩間違えればもたれ合いになりかねないこの二人の関係を、本作は影獣との戦いというアクセントをうまく利用することにより、起伏に富んだ――そして何よりも、初々しく美しく描くことに成功していると感じます。


 正直なところ、本作の舞台が江戸時代初期である必然性はかなり薄く、別の時代でも支障はないように見える――物語に官製影狩人である同心などが絡んでくればまた違ったと思うのですが――という、大きな弱点はあります。

 しかし、本作が初単行本とは思えぬ作者の筆――特にアクション描写はなかなか達者な印象――も相まって、わずか3話ではありながらも、いやそれだからこそ、この先の二人が見たい、とも思わされる作品ではありました。

 本作は2011年の作品、そして作者は現在別の作品を連載中と、その想いが叶うことはまずないのだとは思いますが……


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