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2018.01.02

『風雲児たち 蘭学革命篇』

 2018年の正月時代劇として元旦夜にNHKで放映された『風雲児たち 蘭学革命篇』を観ました。言うまでもなく、みなもと太郎の漫画『風雲児たち』を原作に、三谷幸喜の脚本によって、一昨年の大河ドラマ『真田丸』の出演陣でドラマ化した作品であります。

 物語の始まりは、1792年(寛政4年)――それぞれ古希を迎えた前野良沢と還暦を迎えた杉田玄白の老いた姿から始まります。
 その20年ほど前、彼らが「ターヘル・アナトミア」を翻訳して、刊行した「解体新書」。しかし何故かそこに良沢の名はなく、以来、袂を分かっていた二人。果たして二人の間に何が起きたのか……

 と、ここから物語は過去に遡り、二人が「ターヘル・アナトミア」を手に入れ、千住骨ヶ原で死体の腑分けを見学した日から始まる悪戦苦闘が描かれることになります。

 中川淳庵、桂川甫周を加え、翻訳どころか単語の意味から辿るという気の遠くなるような挑戦を、一歩一歩進めていく良沢と玄白。
 それでも開始から三年を経て、ほぼ翻訳を終えることができたのですが――しかし良沢は翻訳が不完全であることを恐れて刊行の延期を主張、一方玄白は少しでも刊行を早めることがそれだけ多くの人々を救うことになると反発するのでした。

 さらにオランダ医学をはじめとする蘭学を危険視し、弾圧しようとする人々の存在など、刊行に至るまでの問題を前に苦闘する玄白。そんな中で玄白の下した決断は、良沢との関係を決定的に変えることに……


 日本の医学だけでなく蘭学の進歩に、いや西洋そのものへの関心を高めたことによって、歴史を変える原動力となったとも言える「解体新書」の刊行。
 本作は、そのほとんど暗号解読のような翻訳の過程を、コミカルにユーモラスに描きます。時折入り交じる第四の壁を超えるような演出も楽しく、わずか1時間半という時間の中で、テンポ良く展開する物語は、それだけで実に魅力的であります。

 そしてその魅力をさらに高めているのは、豪華なキャストとその好演であることは言うまでもありません。冒頭で触れたとおり、本作のキャストはメインどころだけでも、良沢の片岡愛之助(大谷吉継)、玄白の新納慎也(豊臣秀次)、さらに平賀源内の山本耕史(石田三成)、田沼意次の草刈正雄(真田昌幸)と『真田丸』のメンバーの再結集。
 この他、高山彦九郎や工藤平助、林子平といった本作ではチョイ役(それにしても豪華な面子!)に至るまで、どこかで見たようなメンバーが再結集しているのは、『真田丸』ファンには思わぬサービスであります。

 しかし同時に本作は、こうした顔ぶれの豪華さだけに頼った作品ではありません。
 本作の根幹に据えられているのは、こうした登場人物たち――歴史上に実際に生きた人々の想いと生き様が交錯し、ぶつかり合い、絡み合うその姿そのものなのですから。


 「解体新書」刊行を巡る最大の謎――それは、メンバーの中核であった前野良沢の名がクレジットされていないことであります。本作は後半に至り、その謎を――そこに至るまでの良沢と玄白の心の動きを中心に描き出すことになります。

 お互いに純粋な想いを抱きつつ、しかしそこにほんの僅かのエゴが絡んだこともあって亀裂は決定的となり、二人は袂を分かつことになる――この辺りのすれ違い、行き違いの描写は、ある意味我々も日常的に経験しているようなものだけに、強く胸に刺さります
 そしてれ以上に、袂を分かった二人が、しかしそれぞれほとんど全く同じ想いを抱いていたことが描かれるくだりには大いに泣かされるのです。そしてまた、物語の時点が冒頭に戻り、老いて再会した二人の万感の想いを込めた表情にもまた……
(さらに言えば、この出演陣が、皆『真田丸』では敗者となった側を演じた面々というのもグッときます)

 本作を観て、歴史というものは、決して無機質な出来事の羅列ではなく、その背後に、その時代に生きた人々の想いや生き様が詰まったものであることを――すなわち、一人一人の人生が積み重なって生まれるものであることを、つくづくと再確認させられました。
 そしてそれこそが、私が歴史好きになったそもそもの理由であったことも。


 そしてまた、ラストに流れる有働アナ(こちらもまた『真田丸』組)の「そして時代は、良沢たちの意思を継いだ数多の風雲児たちによって幕末の大革命へと歩みを進めていくのである」というナレーションもたまらない。
 もうこうなったら、この先も毎年『風雲児たち』をドラマ化して欲しい! と心から願う次第です。


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