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2018.02.15

シヒラ竜也『バジリスク 桜花忍法帖』第1巻 彼らを「忍者」と呼べるのか

 この1月からアニメの放映も開始された『バジリスク 桜花忍法帖』――『バジリスク 甲賀忍法帖』の続編ともスピンオフとも言うべき物語の漫画版であります。既に第2巻は刊行されておりますが、まずは思うところあってまだ取り上げていなかった第1巻を紹介させていただきます。

 ただ徳川3代将軍を決するためだけに、十対十の死闘を繰り広げることとなった甲賀と伊賀の忍者たちの姿を描く山田風太郎の『甲賀忍法帖』の漫画版である『バジリスク 甲賀忍法帖』を原案とした山田正紀の『桜花忍法帖 バジリスク新章』の漫画版である本作。
 小説と漫画が交錯して非常にややこしいのですが、本作は元祖『バジリスク』の作画者であるせがわまさきはキャラクター原案というクレジットとなっていますが、本作の作画担当のシヒラ竜也もイメージに合った描き手と感じます。


 さて、この漫画版の内容ですが、小説版ともアニメ版ともまた異なる内容。登場人物等、基本的な設定は一部を除いてほとんど変わりませんが、その物語展開は大きく異なります。
 何しろ冒頭で描かれるのは、江戸城で繰り広げられる甲賀五宝連の一人・緋文字火送と侍たちの死闘。主君のために戦う忍びでありながら、その主君の命に逆らって周囲を業火に包むという、ある意味あり得べき場面であります。

 そしてそこまでして彼が守ろうとするのは、もちろん甲賀八郎と伊賀響。本作では公儀隠密を束ねる服部響八郎の子供として育てられたという設定の二人ですが、八郎の方は忍びの掟など全く頭にはなく、愛する響を守ることだけが自分の目的という、忍びらしからぬ少年であります。

 そんな彼の前に現れたのは、火送を屠ってきた成尋衆の4人。甲賀五宝連と伊賀五花撰は他のバージョンよりも遙かにあっさりと倒され(全く忍法を見せる間もなかったキャラもいたほど)、響八郎も倒された時……


 と、驚くほどスピーディーに展開していく本作ですが、そんなことよりも真に驚くべきは、本作での忍びの扱いでしょう。

 先にも触れましたが、冒頭で火送が「主君のために生き主君のために死ぬるを約定した主に尽くす運命の者」と語るように、忍びとは主君の命あっての存在。
 しかしその火送自身が主命に逆らっているように、本作に登場する忍びたちは、主命に殉ずるという頭はない――というより八郎に代表されるように、それよりも己の想いを優先して生きる者として描かれていると感じさせられます。

 それはそれでもちろん尊い行動原理ではありますが、しかしそれを忍びと言ってよいものか? 主を持たず己の目的のために戦う者は、忍びというより能力者と言うべきではないか……そう感じます。

 いや、本作においては異能者=忍者ということなのかもしれません(ある意味それは世間の山風作品に対するイメージの一つの典型ではあります)。
 しかしそうだとすれば、本当の意味のでの異能者である成尋衆と忍者たちの間の差異はどこにあるのか――それがこの漫画版ではぼやけてしまっていると感じます。

 もちろん「忍法」vs「魔術」は夢の対決、そちらに振り切った物語も普段であれば大歓迎であります。
 しかし本作は(ややこしい関係であるとはいえ)、山風忍法帖を――忍者たちが主命のためにその技を浪費し、物のように死んでいく無常無情の様を、そしてその中で逆説的に描かれる人間性を描いた物語の、その流れを汲むものではなかったでしょうか。

 少なくとも、愛し合いながらも殺し合うほかなかった二人の姿『バジリスク 甲賀忍法帖』の続編である本作からは「時代は変わった――」という言葉などでは拭えない強烈な違和感が感じられるのです。
 果たして本作で描かれるのは「忍者」たちの戦いなのかと……

(原作にはこうした印象はなかったので、これは漫画版の演出によるものでしょう)。


 と、正直に申し上げて扱いに困ってしまったこの第1巻なのですが、先に述べたスピーディーな展開(この巻だけで少年編が終わってしまう)は良いと思いますし、漫画版独自の、響を襲う運命の凄まじさには、「こう来たか!」と驚かされたところであります。

 別途ご紹介する第2巻では本格的にバトルも始まり、これはこれで――とようやく割り切りがつきましたので、今回ご紹介した次第です。


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