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2018.02.04

賀来ゆうじ『地獄楽』第1話・第2話 生と死の境で人間の彼岸と此岸をゆく物語

 集英社のwebコミックサイト「ジャンプ+」にて先日連載が始まり、ネット上でも話題となった時代漫画――抜け忍の男と打ち首執行人の女が「極楽」を求めて旅立つ、「生死を悟る男女の忍法浪漫活劇」とキャッチコピーのつけられた本作、さてどこに向かうのか、現時点では先の読めぬ物語であります。

 生まれた時から殺人術のみを叩き込まれるという石隠れの里で育ち、超人的な肉体と技でもって、暗殺を生業としてきた男・がらんの画眉丸。
 しかし里を抜けようとした彼は、任務中に仲間に裏切られ捕らえられ、幕府の役人によって死罪に処されることになって……

 と、物語の開幕早々延々と描かれるのは、画眉丸に対する処刑の数々。数々? そう、打ち首も火炙りも牛裂きも釜茹も、全てを諦めたかのように無抵抗な彼の肉体には一切歯が立たず、彼は無傷のままなのです。
 そんな彼の前に現れたのは、彼の処刑を見守ってきた一人の娘――名を山田浅ェ門佐切。あの御試御用を務める山田家の娘であります。

 自らも打ち首執行人として超絶の腕を持つ佐切の一刀を、これまでの処刑とは異なり自ら動いて躱してしまう画眉丸。佐切はそんな彼の行動から、いや、これまでの処刑を生き延びたことから、彼が死を受け入れたかに見えて、実は自分自身を偽っていると看破するのでした。
 自らを「がらんどう」と称する画眉丸が胸に秘めた想い――生き延びようとする理由。それを聞いた佐切は、死から、幕府や里からも自由となる手段があると告げて……


 というわけで、いきなりの処刑シーンの連続と、それと交互に描かれる画眉丸の過去、そしてその中から浮かび上がる彼が生きねばならぬ理由に圧倒される第1話。
 普段は茫洋とすら見える者が、実は凄まじい殺人術の使い手で――というのはしばしば見るパターンではありますが、しかしそのオリジンと戦う理由を、これほどスピーディーに、そして鮮烈に描くのには驚かされます。

 そしてある理由をもってその画眉丸のバディとも監視役とも(そして処刑役とも)言える存在となる佐切の秘めた想いも、続く第2話で描かれることとなります。
 人の肉体で刀の切れ味を試し、そしてその生き肝で薬を作ることを生業とする山田家。その家に生まれたという運命を正面から受け止め、克服するために剣士として彼女は刃を振るうのですが――しかし恐怖と罪悪感をぬぐい去ることはできなかったのであります。そして彼女はそれを乗り越えるために……

 と、なかなかに重く響く設定の主人公二人の造形に驚かされますが、それを受け止める物語も凄まじい。
 佐切が画眉丸に語った無罪放免の条件とは、不老不死の仙薬を手に入れること――古代より「あの世」「彼岸」「極楽浄土」「常世の国」などと呼ばれてきた世界に向かい、その仙薬を持ち帰ることだったのであります。

 ほとんど夢物語のような話ですが、しかし幕府は海の彼方のその地を発見し、既に探索の者を派遣済み。しかしそこから帰ってきた者たちは、いずれも人間とは思えぬ、奇怪な姿に変わり果てていたのであります。
 かくて幕府が選んだ次の手段は、死んでも惜しくはない者、そしてそう簡単には死なない者を送り込むこと――言うまでもなく、画眉丸はその一人だったのです。

 そして旅立つのは、画眉丸をはじめとする選りすぐられた十人の重罪人と、その監視役である十人の山田浅ェ門一門――!


 というわけで第2話の時点で、早くも宝探し+デスゲームものとも言うべき骨格を見せることとなった本作。
 その構造自体は、正直なところさして珍しいものではありませんが――しかしそこに先に紹介した主人公二人が加わることで、一気に異彩を放つことになります。

 いわば本作の主人公コンビは、共に容赦なく他人に死を与える存在でありながらも、なおも人間としての心を残し、残そうとする者。生と死の境に身を置き、人間という存在の彼岸と此岸を揺れ動く者であります。

 そんな二人が、おそらくは彼らとは心の在りようの異なる殺人者と呉越同舟、不老不死を求める旅に出たときに何が起こるか――想像するだけでもゾクゾクするではありませんか。

 そこに待つものは何か、そしてそれが二人に何を与えるのか――時代伝奇ものとして、そして何よりも生と死と人間を描く物語として、この先を楽しみにしたいと思います。

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