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2018.02.23

永尾まる『猫絵十兵衛 御伽草紙』第19巻 らしさを積み重ねた個性豊かな人と猫の物語

 連載開始から10年以上を数え、そして単行本も20巻目前の『猫絵十兵衛 御伽草紙』。その最新巻である本書は、久々にピンで表紙に登場した猫姿のニタが目印であります。

 猫絵師の十兵衛と元猫仙人のニタのコンビを時に中心人物として、時に狂言回しとして、市井で起きる様々な猫絡みの事件・出来事を描いてきた本作。
 今回も毎回一話完結のエピソードが七話収められていますが、何と言っても注目すべきは、巻頭に収められた異色作中の異色作「時翔け猫」でしょう。

 何しろこのエピソードの主人公は、現代の中学生・あやめ。親と進路のことで喧嘩して家を飛び出し、近所の猫石神社で怪我をした猫を見つけ、追いかけるうちに意識を失ってしまった彼女が、意識を取り戻した時に見たものは……

 というわけで、まさかのタイムスリップもののこのエピソード、当然というべきかあやめは十兵衛とニタと出会うことになるのですが――しかしあくまでも二人は脇役で、あやめと接することになるのは、サブレギュラーである蜆売りの少年・松吉とその家族なのが、何ともユニークなところであります。

 なるほど、以前も松吉たちは、猫石神社絡みのエピソードに登場したキャラクターではあります。
 しかしそれ以上に、自分の将来に、自分がどのように生きていくか悩むあやめと交流するのが――ある種浮世離れした十兵衛やニタではなく――彼女と同年代であり、そして既に一家を背負って働く松吉という構造が、実に巧みなところと感じさせられます。

 ある意味タイムスリップもののお約束とも言うべき結末も美しく、異色作ながら本作らしい好編であります。


 もちろん、その他のエピソードもいつもながらのクオリティの高さですが、幾つか特に印象に残った作品を挙げれば、まず「産婆猫」でしょうか。

 前話の「いちご猫」で登場した産婆の弟子の少女・子路を主人公とした本作は、ひょんなことから猫の御方様の子を取り上げる羽目になるというお話。
 神や獣など異類の者のお産を人間が助ける物語は民話にしばしば登場する印象がありますが、本作の見事な点は、子路が産婆としては未だ見習いであり、しかし少しでも早く立派な産婆になろうと努力する少女であることでしょう。

 ここに物語は人間に化けた猫のお産というファンタジーと、命を救うために奮闘する少女の成長譚が見事に結び付くことになり、これも実に本作らしい味わいの物語が生み出されているのです。

 そしてまた、ファンタジーだけではないのも本作の魅力であります。陰険で横暴な夫に虐げられ、ついに耐えかねて可愛がっていた猫とともに家を出た女性を描く『事解猫』は、本作を通じても非常に現実的な、重い題材を扱っていることが印象に残ります。

 もちろん、重い・辛いだけでなく、そこに人の強さと猫との絆を絡め、力強く希望に満ちた物語に仕上げてみせるのもまた本作ならでは。
 時にコミカルな描写を交えつつ描かれるこのエピソードにあるのは、そんな人の、女性の強さとそれに対するエールであることは言うまでもありません。


 冒頭に述べたように、一話完結のエピソードを積み重ね、積み重ねて(本書に収録されたところまでで実に128話!)きた本作。
 それでもなお、この巻に見られるように、それぞれに個性的で内容豊かな、本作ならではの人と猫の物語が描き継がれていることは、読者として大きな驚きであり、喜びであります。

 この巻に収められたものだけでなく、この先も描き継がれていくに違いない、本作らしい物語の数々が今から楽しみになる――そんな一冊であります。


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