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2018.02.26

木原敏江『白妖の娘』第3巻 陽だけでなく陰だけでないキャラクターたちの魅力

 ベテラン作家による新たな妖狐伝もいよいよ佳境の第3巻であります。白妖の力を借りてついに姉の仇を討った十鴇。しかしその復讐はいまだ終わることなく、彼女と白妖の暗躍は続きます。白妖を倒し、十鴇を救うために修行を続ける直ですが、しかし白妖によって彼の周囲でも悲劇が……

 白妖を我が身に取り憑かせ、姉を弄んで死に至らしめた貴族を罠にかけて破滅に追いやった十鴇。
 しかし彼女の望みは、貴族が弱き者を虐げるこの世そのものをひっくり返すこと――そのために、彼女は宮中に入り込み、この国の頂点を掌中に収めようとしていたのであります。

 そんな十鴇と白妖の企てを知った葛城直ですが、天性の強大な霊力を持ちながらも、その修行は未だ道半ば。白妖から十鴇を救い出さんとする直と、直の命を白妖から守るため彼を避ける十鴇と――互いを想い合う二人は、しかしそれ故に捻れた関係となってしまうのでした。

 そんな中、十鴇が宮中に入り込むために名乗った玉藻姫という存在に疑いを持つ者が現れます。それに対して白妖と十鴇は、己の身の証を立てるために、ある品を持つ貴族の家に狙いを定めることに。
 しかしその家の娘・椋はかつて直に救われ、親しく言葉を交わす間柄。嫉妬混じりに椋を襲う十鴇と、椋を守り十鴇がこれ以上邪妖に近づくのを阻もうとする直――しかし白妖の力の前に直は窮地に陥ることに……


 前巻までの紹介でも幾度となく述べてきたように、「玉藻前」伝説――というより岡本綺堂の『玉藻の前』を題材とした本作。
 しかしこれらの作品と本作の決定的な違いは、妖狐の依代となった十鴇が、妖狐に文字通り魂を奪われることなく、あくまでも自分自身として存在していることであります。

 これはもちろん、彼女を救い出そうとする直にとっては大きな福音と言えますが――しかしそれは同時に、十鴇が己の意志でもって白妖の行為に荷担し、人々に害を成しているということにほかならないのです。

 あるいは、それが姉の復讐という目的のためであり、そして犠牲となるのがその仇であれば、それはまだ許容されるものかもしれません。しかしこの巻において、彼女は自分が宮中に入るために――それも彼女にとっては復讐の一幕ではあるのですが――無辜の一家を犠牲にすることになります。
 目的のために手段が正当化されるとは決して言えないことを思えば――そしてそこに嫉妬が絡んでいればなおさら――彼女の心は、彼女のままで魔物と化してしまったかにも思えます。

 白妖とともにあっても自分自身の意志を失わない十鴇のキャラクターは、ある意味非常に現代的な造形だと感心してきました。
 しかしそれは同時に直にとって(そしてやがては十鴇自身にとっても)地獄の始まりであったかと、今更ながらに思い知らされた次第であります。


 しかしそれでも十鴇を応援したくなってしまうのは、直を巡るライバルが多すぎ、彼女の分が悪すぎるから――というのは冗談としても、やはり彼女があくまでも人間として魅力的な、言い替えれば血の通った人間として共感できる部分があるためなのでしょう。

 そしてその魅力は彼女のみならず、彼女の側と直の側、双方のキャラクターの多くにとっても言えることであるかもしれません。
 時に(かなり?)コミカルに、時にシリアスに――緩急自在の筆で描かれる登場人物たちは、みな陽の部分だけでも陰の部分だけでもなく、その両方を併せ持った存在として、確かな存在感を持ちます。

 だからこそ本作のキャラクターたちは皆愛おしく、そしてそれだからこそ、先に悲劇が待ち受けているとしか思えない物語の先行きが大いに気にかかってしまうのですが――それは、陰の部分しか持たないように見える白妖にも当てはまります。

 己の敵には容赦せず、無惨な死を与える白妖。今は十鴇の復讐に手を貸しているものの、その真の目的はこの国を覆すことにある白妖。そんな邪妖の中にも、複雑な想いが存在しているように感じられるのは、これは深読みのしすぎでしょうか。
 そしてその想いが、物語の向かう先を左右するかもしれないと考えることも……

 昨年発売されたムック「総特集 木原敏江 エレガンスの女王」によれば、本作は全4巻を予定しているとのこと。だとすれば残り1巻で何が描かれるのか――登場人物一人一人の向かう先が気になって仕方がないのであります。

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