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2018.02.20

碧也ぴんく『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第6巻 変わらない歴史の中で物語が生み出した希望

 源義経の身にその魂を宿し、源平合戦を戦い抜いた少女・皆鶴の物語もこの第6巻でついに完結となります。ついに平家を滅ぼし、分離した皆鶴と義経。しかし源頼朝に追われ逃避行を続けることになった義経主従は、一人、また一人と散っていくことになります。過酷な旅の果てに皆鶴が得たものとは……

 相手に大いなる力を与えるという父・鬼一法眼の術が失敗し、義経と一体化してしまった皆鶴。
 その魂が深い眠りについてしまった義経に代わり、弁慶、佐藤継信・忠信兄弟、伊勢三郎らと合戦を続けてきた彼女は、愛する継信の死という犠牲を払いつつも、義経の宿願たる平家打倒を成し遂げたことで、ついに義経と分離することに成功します。

 しかし皆鶴と義経に異常な執心を抱く頼朝に追われることとなった義経主従は、身重の静御前を連れ、かつて彼らを迎えてくれた奥州に向けて必死の旅を続けることになって……

 と、残念ながらと言うべきか、歴史の流れは変わることなく(その最大の相違点であった皆鶴と義経の関係も元に戻り)、史実通りに追いつめられることとなった義経主従。
 前巻のラストで伊勢三郎が一行を守って散り、さらに追求の手が強まる中、彼らの絶望的な旅は続くことになります。

 その中での最大の救いは、そして最大の力となるのは、義経と皆鶴の関係を主従全員が理解し、皆が二人を――そして二人もお互いを――支えようと力を尽くすことでしょう。
 平家打倒という目的を遂げ、そしてこの国そのものを敵に回しても――いやそれだからこそ一層強く結びついた彼らの絆は、読者たる我々にとっても、大きな救いとして感じられます。

 しかし、それでも歴史の無情が、運命の非情が彼らに忍び寄ります。奥州に向けての旅の中で、そして安住の地のはずの奥州で、静が、忠信が、弁慶が、義経が――皆、それぞれの運命に殉じていくことになるのであります。

 そう、歴史は、後世に残された記録は、本作において変えられることはありません。死ぬべき者は死に、滅びるべき者は滅びるのです。


 それでは、本作には一切の救いはないのでしょうか? その答えは――言うまでもないでしょう。物語は、伝奇は、歴史に対する一つの希望を生み出す力を持つのですから。

 残念ながら、その希望の姿をここで詳しく述べることはできません。しかし皆鶴の、義経の、弁慶の、静の――皆の旅は決して無駄ではなかった、彼女たち一人一人の存在があったからこその、この物語の結末であると、そう申し上げれば十分ではないでしょうか。
(そしてもう一つ、本作のサブタイトルに込められたある想いに、私は胸を熱くしてしまうのであります)


 作者は、その作品のうち、かなりの割合において、歴史もの・時代ものを描いてきました。

 そこに共通するのは、変えられない歴史という流れや定められた運命、大きすぎる社会制度といったもの――言い換えれば、人間個人が自由に生きることを妨げる壁の存在。そしてその壁にぶつかり、それでもなお乗り越えて進もうとする人間の力強い姿と、それがもたらす希望の姿ではなかったかと、私は感じます。

 そしてその姿勢は、本作においても貫かれています。歴史は変わらない、変えられない。それでも、そこに物語という手段によって、新たな希望を生み出すことができる――本作はそんな希望を生み出してみせた歴史ロマンの名品、新たな義経記なのであります。


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