« ドラマ版『荒神』 名作怪獣時代劇を見事に映像化 しかし…… | トップページ | 碧也ぴんく『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第6巻 変わらない歴史の中で物語が生み出した希望 »

2018.02.19

『お江戸ねこぱんち 梅の花編』 リニューアルから約一年、堅実な面白さの猫時代漫画誌

 早いものでリニューアルから約一年、新生第四弾の『お江戸ねこぱんち』であります。今回も、特に印象に残った作品を一つずつ紹介いたします。

『平賀源内の猫』(栗城祥子)
 平賀源内と赤毛の少女・文緒、猫の「えれきてる」を主人公とする本シリーズで今回描かれるのは、長崎屋に毎年やって来るオランダ人を巡るエピソード。鎖国下であり、おいそれと長崎遊学も難しい状況で、新しい知識に飢える江戸の蘭学者たち――その一人である中川淳庵が、今回の主役となります。

 海外の知識を吸収するため、オランダ人と面会しようとする淳庵ですが、しかし伝手もない彼にはそれは不可能な話。一方、源内の方は、ちゃっかりと面会手段を確保していたものの、彼には彼の目的があって……
 と、毎回いくつもの題材を巧みに組み合わせて、一つの物語を織りなしてみせる本シリーズですが、今回は比較的シンプルな筋立て。しかしながらどこまでも純粋に新しい知識を求める淳庵の、そして天才肌ながら同じ想いを持つ源内の、それぞれの向学心を描く物語はなかなかに心地よいものがあります。

 そしてその向学心は彼らだけではなく、彼らが会おうとする相手も――という展開も楽しく、それがある美しい史実に結実するラストが印象に残ります。(淳庵の語学の才が、意外な史実を導き出す展開にも感心)


『新春ねこまんざい』(下総國生)
 今回も画力の点ではトップクラスの作者が描く本作は、もちろん物語の点でも見事な物語。大風で止まった渡し船を待つ八人の男女が、それぞれの立場から猫への想いを語るというなかなかユニークな構成の物語ですが、これが人情ものとして実にいい。

 里帰りのため江戸を離れる少年武士、愛猫を失ったばかりの大工と彼を気遣う芸者、もうすぐ飼い猫が子を産む老夫婦、猫に興味を持ち始めた白酒売り、ツンデレな愛猫を自慢する町人、――
 そんな生まれも育ちも全く異なる人々、偶然この場に集った人々が、「猫」という存在を軸に結びつき、新たな関係性を築いていく様には心温まるものがあります。

 何よりも猫好きが一瞬のうちに猫話でうちとけてしまう様は、本書を読むような方であれば皆覚えがあるはずで、その意味からも本書に実に相応しい一作と言えるのではないでしょうか。


『のら赤』(桐村海丸)
 遊び人の赤助の他愛もない、しかしどこかホッとさせられる日常を描くシリーズ、今回は一面雪景色となった町が舞台となります。

 転がり込んでいた遊女のもとから、酒を調達してこいと放り出された赤助が馴染みの酒屋の親爺を訪ねてみれば、気鬱の病らしいその親爺は死にたいとこぼしている有様。
 餞別代わりの酒と引き替えに、棺桶が欲しいという親爺の望みを叶えることになった赤助は――と、今回も落語のようなすっとぼけた物語が展開することになります。

 そしてすったもんだの末に棺桶を調達した赤助が、親爺と末期の雪見酒を酌み交わすのですが――ここで赤助の見せる表情が実に格好良い。もしかして今回の騒動はこのために――というのは買いかぶりかもしれませんが、おかしくも何とも気持ちのいい人情ものに仕上がっています。


『猫鬼の死にぞこない』(晏芸嘉三)
 瀕死の重傷を負いながらも謎の女の力で甦り、さらに江戸の闇に跳梁する謎の怪物と戦う羽目となった元隠密の彪真を主人公とする本作は、本誌では異色の変身ヒーロー譚と言うべき作品。一連の事件が真丹(中国)由来のものであると考えた彼は、真丹に詳しい学者を訪れるも、そこでも新たな怪異が……

 というわけで濃厚な伝奇色が嬉しい本作。猿の死体が現れ消えるという、なるほどどこか大陸の怪談めいた事件が描かれることとなりますが、クライマックスでは彼の不具となった片手片足が巨大な猫のそれに変わり、超人的な力を発揮するというけれん味が実にイイのであります。
 彪真の手下の、シリアスなのにどこかすっとぼけた造形も良く、早くも次回が楽しみな作品であります。……が、誰かが付け髭で変装しているかのような学者のビジュアルだけは本当にどうにも。


 というわけで、今回も堅実な面白さの本誌。
 その他の作品では、女だからと剣を持たせてもらえぬ剣術道場の娘が、放浪の猫剣士・ぶち丸の指南を受ける『猫師範ぶち丸』(芋畑サリー・キタキ滝)が印象に残ったところ。絵的には完成しているので、物語にもう一ひねりあれば言うことなしだったかと思います。


『お江戸ねこぱんち 梅の花編』(少年画報社にゃんCOMI廉価版コミック) Amazon
お江戸ねこぱんち 梅の花編 (にゃんCOMI廉価版コミック)


関連記事
 『お江戸ねこぱんち 夢花火編』 顔ぶれは変わり、そして新しい魅力が
 『お江戸ねこぱんち 赤とんぼ編』(その一)
 『お江戸ねこぱんち 赤とんぼ編』(その二)

|

« ドラマ版『荒神』 名作怪獣時代劇を見事に映像化 しかし…… | トップページ | 碧也ぴんく『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第6巻 変わらない歴史の中で物語が生み出した希望 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/13655/66408796

この記事へのトラックバック一覧です: 『お江戸ねこぱんち 梅の花編』 リニューアルから約一年、堅実な面白さの猫時代漫画誌:

« ドラマ版『荒神』 名作怪獣時代劇を見事に映像化 しかし…… | トップページ | 碧也ぴんく『義経鬼 陰陽師法眼の娘』第6巻 変わらない歴史の中で物語が生み出した希望 »