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2018.02.18

ドラマ版『荒神』 名作怪獣時代劇を見事に映像化 しかし……

 宮部みゆきの『荒神』が、BSプレミアムのスーパープレミアムドラマとしてドラマ化されました。原作は東北の小藩を舞台に謎の怪物の脅威に立ち向かう人々の姿を描いた怪獣時代小説の傑作、それを映像化するのはかなり難しいのではないかと思っていましたが、それを実現してのけた力作であります。

 東北の永津野藩家老・曽谷弾正の妹・朱音が暮らす名賀村での祭りの最中、深手を負い、旅の浪人・榊田宗栄によって担ぎ込まれた少年・蓑吉。朱音の屋敷に運び込まれた蓑吉は、住んでいた隣の香山藩の山村が、怪物に襲われて壊滅したと語ります。
 国境の砦に警告に向かう朱音と宗栄ですが、時既に遅く、怪物の襲撃を受けて砦は全滅。名賀村の人々は生き延びていた蓑吉の祖父とともに怪物を迎え撃とうと防備を固めます。

 一方、怪物の出現を知った弾正は、怪物が永津野藩主の血筋を狙うことを知り、藩主の娘である自分の妻を生贄にして怪物をおびき寄せんと、名賀村に現れ、朱音と再会するのでした。
 果たして怪物は何者なのか、何故今現れたのか。そして怪物と弾正・朱音の因縁とは……


 というわけで、文庫本で700ページ近い大作を2時間弱に収めるということで随所にアレンジが施されているものの、基本的な設定と物語展開は原作を踏まえたものであるドラマ版。

 放送前に何よりも気になったのは「怪物」の存在とその暴れぶりですが、これが想像以上に、いや想像を遥かに上回る露出で大暴れしたのが実に嬉しい。ビジュアル的にはいささかイメージと異なる部分もあったように思いますが、昼日中から出現して大暴れするその姿は迫力満点、大満足であります。

 特に村を舞台に暴れまわる場面は、対象物があまりない中で迫力を見せるのは難しいのでは――というこちらの予想を嬉しい形で裏切っての問答無用の大殺戮。地上波ではないとはいえ、老いも若きも容赦なく殺し、喰らう様をここまできっちりと見せてくれるとは思いませんでした。

 キャストの方も好印象で、特にこのドラマ版の二人の主人公とも言うべき朱音と弾正をそれぞれ演じた内田有紀と平岳大はまさにはまり役。優しさと凛とした部分を(そして同時にある陰も)併せ持つ朱音、そして野望と執念の男である弾正を、二人は見事に演じていたと思います。


 そんなこのドラマ版において、原作と比べての一番大きく印象に残る変更は、香山藩側の若侍である小日向直弥とやじの存在がバッサリとカットされたことでしょうか。
 直弥のキャラはおそらく宗栄に反映されている(そのため、原作ではもっと世慣れた人物であったのが随分と若い印象に)のかと思いますが、弾正とはまた異なる武家社会の側面を浮き彫りにするキャラクターだっただけに残念ではあります。

 そしてこの改変に象徴されるように、このドラマ版は永津野側に――そして何よりも弾正と朱音側に大きくウェイトを置いて描く形となっています。
 これはこれで限られた時間で描くためには仕方ないものかと思いますが、これによって、怪物に託して人間そのものの「業」を描いていた物語が、二人のそれを描くものにスケールダウンされてしまった印象は否めません(さすがに原作に秘められているであろう、あるモチーフを描くのは無理だとしても)。

 上に述べたように二人の好演はあるものの、それ故に(そして弾正の妻役の前田亜季のリキの入った演技もあり)二人の過去のエピソードが妙に生々しいものとして浮いてしまった感はありますし、そのために宗栄のキャラクターが浮いてしまったのが勿体無い。

 さらに言えば宗栄が終盤に朱音にかける言葉が、原作では非常に美しくも物哀しい、そして朱音に対する一つの救いを与えるものであったのが、全く趣もひねりもないもの(そもそもこの時代にない言葉だろう、というのはさておき)であったのは、個人的にはこのドラマ版最大の不満点でありました。

(も一つ、原作にはあった怪物の○○○○がなかったのも残念ですが、これはなくても話はまあ通るので……)


 と、厳しいことも書いてしまいましたが、BSとはいえプライムタイムに本作のような怪獣時代劇が、それも相当のクオリティを以て描かれたことは、やはり快挙であると言うべきでしょう。
 怪獣とはいわないまでも、今後も本作のような個性的な作品が映像化されることに希望の持てるドラマ化であったことは間違いありません。



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