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2018.02.24

立野真琴『月虹伝書』 晴明の「弟」、時を超える!?

 安倍晴明の逸話・伝説は様々ありますが、その一つが信太狐――彼が人間の父と狐の母の間に生まれたという伝説であります。本作はその伝説を踏まえ、晴明の異父弟・月虹丸が活躍する、一風変わった平安(に留まらない)陰陽師伝奇漫画であります。

 突如京の都で起き始めた怨霊騒ぎ。次々と人々を襲い、害をなす怨霊への対処に追われる安倍晴明の前に、月虹丸と名乗る青年が現れます。
 人よりも獣の気配を漂わせる彼の正体は、晴明の母が父のもとを去った後に、別の人間との間に生まれた異父弟。兄同様に優れた霊力を持つ彼は、兄と共に都を騒がす怨霊に挑むことになります。

 しかし騒動の源となっているのは、実は月虹丸の許嫁・桜女。狐の里で愛し合った間柄ながら妖狐と化して暴れ回る彼女の真意を糺し、連れ戻そうと奮闘する月虹丸ですが、事態は意外な方向に展開していくことに……


 というわけで、晴明は強烈な存在感を放ちつつも脇に回り、月虹丸と桜女、かつては愛し合った二人の哀しい戦いが中心となる本作。
 冒頭に述べたように、晴明の母の伝説は有名でありますが、その母が晴明の後も子を生んでいたという設定はユニークで、おそらくは他に類を見ない設定ではないかと思います。

 しかし本作は第2話以降、この設定をさらに上回る、意外かつユニークな展開をみせることになります。
 それはタイムスリップ――月虹丸と晴明に追い詰められた桜女は時空を飛び越え、未来の(我々にとっては過去の)時代に害をなさんと跳梁するのであります。

 かくて第2話では200年近く未来に飛んだ桜女が、安倍泰親に倒されて殺生石と化した玉藻前を復活させ、ダブル妖狐として大暴れ。
 これに対して、彼女を追って時を超えた月虹丸と泰親、さらに魂を飛ばして泰親に宿った晴明のトリプル安倍が戦いを挑む――と思わぬオールスターバトル(?)になる、実に楽しい展開が描かれることになります。

 第3話ではさらに時を超え、桜女は晩年の太閤秀吉の側女に潜り込み、対して月虹丸と晴明は千利休の元に現れ……
 と、時代も物語もあまりに飛んだ展開に驚かされますが、実は晴明と利休の間には、史実の上で因縁(恥ずかしながら本作を読むまで知りませんでした)があることを踏まえた物語に感心させられます。

 そしてそれが、晴明と利休のもう一つの繋がりに結びついて終わるという展開もまた、唸らされるところであります。


 と、意外な展開の連続である本作ですが、残念ながら第4話で完結。
 再び元の平安時代に戻って語られる桜女の真実とは――ここでは伏せますが、月虹丸の回想で描かれる、ある意味獣らしい(と言っては大変失礼に当たるかもしれませんが)あけすけな彼女の言葉が、思わぬ悲しい結末に結びつくのにもまた、驚かされるところであります。

 やはり全4話というのは短く、また上で触れたとおり、全く無関係ではなくてそれどころか面白い因縁があるとはいえ、やはり桃山時代まで舞台が飛ぶのはいささか違和感はあります。
(あるいはもっと話数が多く、様々な時代に飛べばこの辺りの印象も異なったかもしれませんが……)

 しかし、幾度も述べたように、信田狐の伝説を巧みに生かして新たなキャラクターを創造し、そしてさらにこのキャラクターならではの物語を描いてみせた点は、大いに評価できます。
 作者はこれが初の時代もの(あとがきによれば本作を描くのには大苦戦したようですが――)とのことですが、そうとは思えぬ水準の作品であったかと思います。

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