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2018.02.06

永尾まる「まるのみ永尾まる」 ファン必見、三つの物語が待つ一冊

 「ねこぱんち」とその系列誌でエースとして活躍する永尾まる。その永尾まるの作品集として「まるのみ永尾まる」以来実に10年ぶり(!)に刊行された増刊――「江戸人情・猫咄傑作選&妖怪物語」と題して『猫絵十兵衛御伽草紙』の傑作選と、2つの単行本未収録作品を収録した一冊であります。

 というわけで、本書に収録されているのは『猫又と上手に暮らす法。』3編と『飛び耳茶話』3編、そして『猫絵十兵衛御伽草紙』6編の全12編。

 巻頭の『猫又と上手に暮らす法。』は、2010年に「OYATUねこぱんち」でスタートして以来、最近では「世にも奇妙なねこぱんち」誌に登場している現代もの。故あって猫又の一夜と同居することになった人間の少女・咲耶を主人公とするシリーズです。
 好奇心旺盛な咲耶と、イケメンの青年に变化するツンデレの一夜のコンビが楽しいシリーズですが、猫漫画というよりも妖怪漫画としての要素が強いのも本作の魅力。

 今回収録されたエピソードは、山からやってきたアナグマが引き起こす騒動、癇癪を起こして家出した一夜を追って魔所を行く咲耶の奮闘、そして古墳で肝試ししていた最中に本物に出会ってしまった咲耶の友達を救う一夜の活躍と、賑やかなエピソード揃いですが、登場する妖怪たちの描写はどれもなかなかに恐ろしい。
 特に2話目のエピソードで咲耶が踏み込む魔所のビジュアルは、実質的には一コマのみの描写ながら実に恐ろしげで、『猫絵十兵衛』にも幾度か登場していますが、このあたりの異界描写は、実は作者の最も得意とするところでは――という印象もあります。(3話目に登場する魔物たちも実におっかない)


 そして『飛び首茶話』は、「江戸ぱんち」誌に掲載された、そのタイトル通りに飛び首を主人公とした連作。初出時は「猫絵十兵衛異聞」と冠されていましたが、おそらくは同じ世界、同じ時代の別の話でしょう。
 飛び首とは、抜け首、飛頭蛮、落頭民などとも呼ばれる、ろくろ首の原型とも言われる妖怪。夜になると首だけが外れ、耳を翼として飛び回るという、あまり夜道に会いたくない妖怪ですが――作者のお気に入りらしく、『ななし奇聞』でも可愛らしい役どころで登場した妖怪であります。

 本作の飛び首・シノリもまだ年端もいかない少女で、人間の父と落頭民の母の間に生まれたハーフ(ただし体質は母親譲り)。山中で両親と暮らしていたものの、父が、そして母が相次いで行方不明となり、街に出てきて浮浪者のように暮らしていた――というなかなかハードな設定ではあります。
 そんな中で、何故か家に無数の付喪神や妖怪を住まわせている縫箔屋(裁縫師)の老人・将護と出会った彼女が、彼に弟子入りして――という設定で、ハートウォーミングな物語が展開していくことになります。

 上で触れたように、恐ろしいものは恐ろしく、人間とは相容れない存在として描く作者ですが(本作の1話めでも、シノリを攫おうとする魔物の描写がかなり不気味)、その一方で、人間と接する世界に暮らす連中の描写も巧みであるのは言うまでもないお話。
 本作においても、シノリをはじめとして、将護の家に住まう連中は実に人間臭く、「妖怪もの」として楽しめる作品であることは間違いありません。


 そして『猫絵十兵衛御伽草紙』は、作中にしばしば登場するサブレギュラーの二人――猫好きでさばけた性格の老僧・奎安和尚と、木匠を目指す生真面目な少女・信夫の二人を中心とするエピソードが収録されています。

 信夫が依頼を受けた猫と月の欄間が思わぬ奇瑞を起こす「観月猫」、奎安和尚と愛猫・縹の強い結びつきを描く「縹色の猫」、不思議な傀儡芝居を見せる少女と奇妙な猫妖を描く「山猫いたち」、火事で片方が焼け落ちた狛猫のために信夫が腕を振るう「石猫」、破れ寺を再建しようと奮闘する猫又が奎安に弟子入りする「猫和尚の修行」、猫の浮き彫りの入った衝立のために信夫が猫相手に奮闘する「衝立猫」――

 どのエピソードも単行本に収録済のため、ここでは細かく紹介しませんが、どれも本作らしい水準以上の作品揃い。
 特に「縹色の猫」は、和尚と縹の交流はもちろんのこと、本作では比較的珍しい派手なアクションと術描写(そして格好いい西浦さん)、ニタと十兵衛のいちゃつきと、本作全体を通じてのベストエピソードであると今更ながらに確認した次第です。


 以上、それぞれ魅力的な三作品を堪能できる本書、ファンであれば必読なのですが――個人的には『猫又と上手に暮らす法。』はそろそろ単行本化していただけないかなあ、とも思ってしまったところではあります。

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