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2018.02.02

霜島けい『おもいで影法師 九十九字ふしぎ屋 商い中』 これぞ妖怪時代小説の完成形!?

 曰く付きの品物ばかり扱う九十九字屋で働くことになった霊感少女・るいが、無愛想な主やぬりかべになってしまった父親とともに怪事件に挑むシリーズもこれで第3弾。今回もるいたちは、個性的で恐ろしく、そしてホロッとさせられる事件たちに巻き込まれることになります。

 ある日突然父・作蔵が呆気なく逝ってしまい、天涯孤独となったるい。死んだ拍子に妖怪ぬりかべになってしまった作蔵がつきまとうおかげで奉公先を次々追い出されてきた彼女は、おかしな品物だらけの九十九字屋でようやく安住の地(?)を見つけるのでした。
 イケメンながら無愛想な主・冬吾にため息をつかれながらも、今日もるいは店に持ち込まれる曰く付きの品物を巡る事件を解決するため、東奔西走することに……

 というスタイルもすっかり定着した感のある本書ですが、今回描かれる物語は、どれもとびきりユニークなもの揃いであります。

 店の品物の虫干しの最中、突然姿を消してしまった作蔵。そこに残されていたのは曰く付きの鏡で――と、その鏡に映るものの意外な正体が語られる「虫干しの日」
 店に出入りする岡っ引き・源次が世話になった隠居同心宅に現れる、今は老同心の亡妻の影。その影が引き起こす奇怪な事件と意外な真実を描く表題作「おもいで影法師」
 お使いの途中、不気味な幽霊に憑かれてダウンしてしまったるい。しかしその夢枕に現れて幽霊を追い払ったのは死んだはずの母親で……という「もののけ三昧」

 以上3話は、キャラクターの個性、描かれる人情の温かさと、どれも魅力的なのですが――それらを超える最大の魅力は、描かれる怪異の斬新さなのであります。

 たとえば第1話に登場するのは、曰く付きの鏡。鏡にまつわる怪談は古今東西あり、時代ものでも名品がいくつもありますが――本作で描かれる鏡の正体(?)は、あまりにも意外としか言いようもないものであります。
 その怪異が生じ、そして明らかになるシチュエーションも含めて、類話はほとんどないのではないと断言できる内容なのです。

 さらに、るいを助ける母親の幽霊の意外な正体が、人ともののけの境を超えた思わずグッとくるような人情話に繋がっていく第3話もいいのですが、圧巻は表題作であります。


 上で触れたように、本作に登場するのは影の怪異。晴れた日に、老同心が暮らす屋敷の離れに既に亡くなった妻の影だけが現れ、まるでそこで生前と同じ暮らしを続けているかのように見えるというのです。
 しかし怪異はそれだけでは終わりません。老同心の跡を継いだ息子夫婦が暮らす母屋の方にも影は現れるのですが――しかしそれは明らかに老女ではなく、若い女性や子供の影に見えるというではありませんか。

 だとすれば――そこに浮かび上がるのは「老同心が妻の影だと思っているものは、本当に妻の影なのか?」という、考えようによってはあまりに恐ろしい疑問。
 果たして「影たち」の主は誰なのか、そして何故影たちが出没するようになったのか――依頼を受けて調べ始めたるいと冬吾、作蔵が知った、意外な真実とは……

 と、老武士と亡妻の交流という少々不気味ながらもイイ話が、一転、奇怪な未知の存在の侵略に見えてくるという、どんでん返しの恐怖感がまず素晴らしい本作。しかしそれだけで終わることなく、その先では二転三転する意外な展開が待ち受けています。
 そこで明かされる真相の、オカルト的な観点での平仄の合い方(この辺りの感覚は、さすがは作者ならでは)がまず見事なのですが――それが明らかになる過程に、本作ならではの、本作でしか描けない要素が絡むのには驚かされます。

 そして変形の○○○○もののように展開しておいて、きっちりと泣かせるジェントル・ゴースト・ストーリーに落とし込んでみせるラストには、ただただ唸るしかないのです。


 文庫書き下ろし時代小説のサブジャンルとしての妖怪時代小説に必要なものは、キャラの個性、怪異の面白さ、そして人情ものとしての泣かせ――その三つではないかと思います。
 それらが極めて高いレベルで融合した本作は、ある意味「妖怪時代小説」の完成形なのではないか――というのは大袈裟に聞こえるかもしれませんが、僕の掛け値なしの気持ちなのです。

 最近はジャンルとしてはいささか元気のない妖怪時代小説ですが、まだまだどうして、と思わされる本書――時代小説ファンのみならず、ホラーファンの方にも是非ご覧いただきたい逸品であります。


『おもいで影法師 九十九字ふしぎ屋 商い中』(霜島けい 光文社文庫) Amazon
おもいで影法師: 九十九字ふしぎ屋 商い中 (光文社時代小説文庫)


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