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2018.02.25

山田睦月『コランタン号の航海 水底の子供』 海洋冒険もの+伝奇時代ホラーの快作、出撃!

 ナポレオン戦争のただ中、コランタン号に着任した青年士官ルパート・マードック。しかし海軍きっての曰く付きの艦で彼を待つのは怪人と怪現象の数々だった。そんな中、20年前の革命を逃げ延びた貴族救出の指令を受け、フランス沿岸に向かうコランタン号。そこは伝説の都が眠る死者の海だった……

 昨年末の刊行以来、ずっと参考にさせていただいている『少女マンガ歴史・時代ロマン決定版全100作ガイド』(細谷正充 河出書房新社)。実はその中でも最も気になっていたのが本作でした。何しろ、海洋冒険もの+伝奇時代ホラーだというのですから、気にならないわけがないではありませんか。
 そしてようやく手に取ったシリーズ第1弾の本作は、期待を大きく上回る素晴らしい作品でした。

 物語の舞台は1811年――欧州を席巻したナポレオンがトラファルガーで敗北した後、帝位に返り咲き、各地で激戦を繰り広げている時代。そして様々な技術が大きく発展し、欧州各国が世界各地に版図を広げていた時代。
 そんな頃に、主人公たるルパート青年がコランタン号に着任する場面から物語は始まります。

 チームもの、部隊ものでは、新任の主人公が新たな環境と個性豊かな仲間たちと出会い、戸惑いながらも成長していく――というのが定番ですが、本作もそれを踏まえた展開。
 なのですが、その彼を待ちかまえている艦と、そこに集う面々が個性豊かどころではない面白さなのであります。

 何しろコランタン号は20年近く前に現艦長が拿捕した幽霊船。そのためか、コランタン号はポルターガイスト現象が当たり前のように起き、見たこともないような猿や奇怪な仮面を被った呪医が闊歩する、とんでもない艦だったのであります。
 当然、そこに集う面々も、気のいいながらも一癖も二癖もある強者揃い。ごくごく常識的な人間であるルパートは、大いに振り回されることになるのですが、その姿がまず楽しいのであります。

 それなりに経験を積んできた彼にとっても異界と言うほかないコランタン号ですが、しかし我々現代の読者にしてみれば、そもそも19世紀の帆船と海軍そのものが異界のようなもの。そのいわば二重の異界を、ルパートの目を通じて、本作は丹念に描写していきます。
 そしてそれを通じて本作が成し遂げているのは、海洋冒険ものという、かつては娯楽の花形であったジャンルのいわば再発見でしょう。その古くて新しい題材の新鮮さ、面白さだけでも本作の個性は際立っているのですが――しかしそれだけに終わりません。

 そう、本作は冒頭で述べたとおり、海洋冒険ものにして伝奇時代ホラー。それもこれまた個性的かつスケールの大きなものなのですから……


 今回のコランタン号の任務は、フランス革命の際、暴徒が迫る館から忽然と姿を消したというカンペール伯救出。その向かう先はフランスはフィニステール地方――死者の海と呼ばれる地であります。
 しかしその地こそは、かつて王女ダユーの下で悪徳と虚栄の限りを尽くし、ついには海の底に沈んだという伝説のイス王国(日本では有名ゲームの題材となったあのイースであります)があったと伝えられる地。

 そもそもそのダユーを諫めたというキリスト教の聖人から名を取っているコランタン号にとっては因縁極まりないその地で、ルパートはナポレオンの懐刀である妖人ベシャール大佐の罠に落ち、海底の都に迷い込むことになります。
 そしてそこで彼を待っていたのは、本作の副題にあるとおりの……

 というわけで、何ともそそられる展開が続くのですが、たまらないのはクライマックスの海戦で姿を現す、コランタン号の真の姿。
 その意外さと格好良さが描かれるこのシーンは、漫画ならではの迫力と説得力に満ちた名場面。これこそは海洋冒険ものと伝奇ホラーという本作の二つの特色を象徴するものと言うべきでしょう。


 そんな物語を描く一方で、ルパート青年の成長物語としても読める本作。
 心の奥底では不思議な世界に憧れつつも、少年時代の経験からそれを否定してしまうルパート青年を通じて、彼岸と此岸にあるものの存在と人との接し方を静かに描く点も大いに好感が持てます。

 全8巻、4部構成の物語はまだ始まったばかり、近々に残る物語も紹介させていただきます。

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