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2018.02.09

中村理恵『天の破片』 半人前陰陽師と還ってきた偉大なるご先祖様!?

 かの大陰陽師・安倍晴明――の子孫であり卜占の天才として「指神子」と呼ばれた安倍泰親――の従兄弟で半人前の陰陽師・安倍時晴が、復活した晴明に振り回されつつ陰陽師として奮闘する姿を描く、ちょっとコミカルな平安ホラー漫画であります。

 時は12世紀、安倍晴明の子孫でありながなら、術もうろおぼえでビビりの時晴。ある荒れ屋敷に出没するというもののけの祓いを依頼された時晴ですが、もたもたしている間に何者かによって呼び出されたのは――何と彼の祖先である晴明その人だったではありませんか。
 実は晴明を呼び出したのは、陰陽道マニアの少女・瑠璃。父に先立たれ、継母に疎んじられる彼女は、父の屋敷で密かに召鬼の術を行ったというのであります。

 かくて久々の現世を満喫する晴明に振り回される羽目になってしまった時晴。しかし瑠璃の術が平安京に開けた結界の穴から、様々な悪しきものが入り込んできて……


 「有名人の子孫」もの、とでも呼べばいいのかもしれませんが、有名人の子孫でありながらもぱっとしない主人公が、祖先の教え(あるいは本作のように祖先本人)に出会って才能を開花させ、活躍する――というスタイルの物語があります。

 本作はまさにそんな物語なのですが、しかし、そのご先祖様本人が全く自重しないのが面白い。
 本作の晴明はオレ様的な長髪美形、どうやら肉体も完全に復活しているのか、普通の人間のような姿で宮中に出入りしたり瑠璃にカッコいいところを見せたりとやりたい放題であります。

 こうなると時晴はすっかり食われてしまいかねないのですが――しかし未熟ながらに真っ直ぐな心を持つ時晴の熱意、そしてなんだかんだで子孫に優しい晴明の導きで、怪事件を解決していくというのが、本作の楽しいところなのです。

 本作は全3話+1話――復活した晴明と時晴が瑠璃の継母に憑いた鬼と対峙する第1話、女官となった瑠璃が仕える女御の背中に憑いた人面蜘蛛の怪を描く第2話、そして何者かに憑かれたように夜毎都を彷徨う瑠璃を救うため時晴たちが奔走する第3話(そして現代を舞台に晴明が時晴の子孫を助ける書き下ろし番外編)という構成。

 単行本1巻分ということもあり、分量自体は多くはありませんが、人の心の闇の部分にスポットを当てつつも、時晴の善良さや晴明の頼もしさもあり、明るいムードで楽しめる作品です。

 特に第2話からは、冒頭で触れた指神子――安倍泰親も登場。才を鼻にかけ、時晴を見下しては何かとちょっかいを出すライバルキャラとして(しかし目の前の晴明を晴明と気付かないのが可笑しい)、話をかき回すのも賑やかでイイ。
 瑠璃に気のある時晴に当てつけるために彼女を口説こうとするも、彼女の方は……というお約束も楽しいところです。

 ちなみに泰親は(そしてまったく驚いたことに時晴も)実在の人物ですが、本作にはそのほかに藤原頼長も登場いたします。
 物語の時点では権勢の絶頂期ですが、彼が後にどうなったかは歴史が示すとおり。その辺りを踏まえつつ、世の儚さに繋げていくという語り口も悪くありません。


 ……という本作、短編連作というスタイルでもあり、壮大さや深みを求める向きには正直おすすめしませんが――ちょっと変わった平安ものが読みたい、肩の凝らない陰陽師ものが読みたいという方は、手にとっていただいてもよいのではないかと思います。
 現在はKindle Unlimitedで読むことができるのもありがたいところであります。


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