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2018.02.16

姫川明『カイジ』 暗殺に生きた青年がたどり着いた道

 電子書籍の長所はもちろんその利便性にありますが、まだ単行本化されていなかった作品や長きに渡り絶版だった作品が、電子オンリーで刊行される点も大きいと言えるでしょう。本作もそうした形で刊行された未単行本化作品――数々のコミカライズで名を馳せる作者による戦国アクション漫画であります。

 明国での戦の中で焼き尽くされた村。偶然その地を訪れた日本人・峨竜斉は、その地獄のような跡地で唯一生き延びた少年・カイジを見つけ、共にいた虎・バギとともに日本に連れ帰るのでした。
 以来、カイジは峨竜斉の下で修行を積み、師が組織する暗殺者集団「影龍」の一員として、命じられるままに暗殺を繰り返していくことになります。

 その身に刻み込まれた技術と天賦の才で、影龍の実働部隊の中でも屈指の存在として活躍するカイジ。しかし数々の暗殺を行い、その中で様々な人間模様と出会う中で、彼の中に小さな変化が生じていくことになります。
 子供の頃から失われた自らの記憶。そして異常に傷の治りの早い体質。自分は一体何者なのか、そして何を望むのか。自分の中の変化に戸惑った末にカイジが選んだ道とは……


 その名を聞けばまず『ゼルダの伝説』が思い浮かぶほど、同作のコミカライズで長きに渡って活躍してきた姫川明。
 全く恥ずかしながら、その作者が時代ものを描いていたとはつい最近まで存じ上げなかったのですが――その本作は、1993年に「週刊少年サンデー超」誌に連載された作品であります。

 ざっと20年以上も前の作品ではありますが、作者独特の、柔らかさとシャープさを同時に感じさせる絵柄はもちろんこの頃から健在。
 物語の内容が内容だけに激しいアクションや人死にも少なくありませんが、それらをきっちりと描きつつも、血生臭かったり重かったりするだけでは終わらないのは、この絵柄によるところも大きいでしょう。

 さて物語の方は全6話――カイジと影龍の登場編とも言うべき「謎の刺客」、カイジの標的が父の仇だという少年が登場する「知多丸」、これまで数々の刺客を返り討ちにしてきたという鬼と対決する「鬼が原」、孤児たちを育てる寺の老僧と出会ったカイジの非情の任務「泣き龍」、かつて冷酷非情を謳われた梟雄がカイジを前に告げる意外な願い「雪姫」、戻ってきた自分の記憶に戸惑うカイジの最後の選択「雪消」と展開していくことになります。

 舞台は戦国時代であるものの、あくまでもその「いつか」「どこか」で繰り広げられる物語は史実とリンクすることはなく、その点は些か残念ではあります。
 しかし本作の場合、歴史に縛られないが故に、自由に物語を展開させることができたということも言えるかもしれません。特にカイジのほとんど唯一の「外」との接点とも言うべき、標的となる戦国武将たちそれぞれのキャラクターと生き様は、その自由さによるところが大きいと感じます。

 特にラスト一話前の「雪姫」で、暗殺に現れたカイジを恬淡と迎え入れる武将は、一時の語らいの中で刺客としてのカイジの存在すら肯定しつつも、そうではない新たな道へ一歩を踏み出せと背中を押してみせる姿が強く印象に残ります。


 それにしてもその「外」と接する手段が暗殺――すなわち人殺しのみというのは、いかに舞台が戦国とはいえ、あまりにも非人間的と言うほかありません。
 しかしそんな残酷な環境の中でカイジが少しずつ人間的な感情を学び、そして失われた記憶――それもまたその感情と無縁ではないのですが――を甦らせていくという、一種皮肉ですらある構図こそが、本作の魅力と感じます。

 残念ながらわずか6話と決して多い話数ではないこともあり、カイジの肉体の秘密や影龍のメンバー一人ひとりの人物像など、物語の全てが描き切れたかといえば、疑問の点がないわけではありません。
 しかし初めて自分の意志で行動することによって、刺客としての自分と人間としての自分を統合した新たな道を――そのたどり着く先はもしかしたら死なのかもしれませんが――踏み出したカイジを描く結末は、決して悪いものではないと感じられるのです。


 ちなみに作者の作品では、同人誌で展開してきた長編忍者アクション『ヒウリ』も電子書籍化されており、こちらも近々紹介したいと思います。


『カイジ』(姫川明 オフィス漫) Amazon
カイジ

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