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2018.03.09

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第10巻 有情の忍、鬼に挑む!

 単行本は本書で巻数二桁に突入、連載も今週で百回と、完全に流れに乗った感のある『鬼滅の刃』。記念すべきこの第10巻ではいよいよ遊郭編が佳境に入ることになります。ついにその姿を現した上弦の陸に単身戦いを挑む炭治郎ですが、戦いは意外な様相を呈することに……

 音柱・宇髄天元の指揮の下、女装して遊郭での探索に当たることになった炭治郎・善逸・伊之助の三人。別々の見世に潜入した彼らは、それぞれの立場から、遊郭で起こる異変に気付くのでした。
 その異変の原因は、長きに渡り花魁に化けて遊郭に潜んでいた上弦の陸・堕姫。善逸と伊之助は既に天元の三人の嫁を襲っていた堕姫の分身・蚯蚓帯と対決する一方で、炭治労は堕姫と単身対決することになります。

 善逸たちのもとには天元が駆けつけ、形勢逆転する一方で、これまでとは段違いの実力を持つ堕姫に苦戦を強いられる炭治郎。
 怒りから覚醒状態に至り、ヒノカミ神楽の剣技によって堕姫に肉薄する炭治郎ですが、しかし人間の身の悲しさ、後一歩と言うところで体力の限界が……


 と、覚醒しても叶わない相手の強大さをたっぷりと描く冒頭から既にテンションは上がりっぱなし(そしてその中でさらりと先々の伏線を入れてくれるのがまた心憎い)ですが、しかしそこから一段も二段も先があるのが、本作の恐ろしいところであります。

 力尽きかけた炭治郎に変わって堕姫に挑むは、もう一人の鬼殺隊士というべき禰豆子。怒りによって急激に成長し、上弦並みの力を発揮する彼女と堕姫は、人間と鬼との戦いとは全く異なる、鬼同士の凄惨極まりない潰し合いの様相を呈することになります。
 そして混戦の中、天元と仲間たちがついに合流、一気に形勢逆転と思いきや、ここで恐るべき真の敵が登場――!

 いやはや、この辺りは連載で読んでいた時には、えーッ、まだ戦いが続くの!? まだまだパワーアップするの!? と驚いたり呆れたりの連続だったのですが、単行本でまとめて読むと、その畳かけが実に気持ちがいい。
 必死の剣技で挑む炭治郎、圧倒的なパワーを叩きつける禰豆子、けた外れの豪快さと素早さを合わせ持つ天元と、それぞれのバトルスタイルが全く異なるのもあって、本作ならではのスピーディーなバトルを存分に楽しませていただきました。


 そしてその一方で(このブログ的に)印象に残るのは、やはり「忍」としての天元と嫁たちの存在であります。

 本作の舞台は大正――言うまでもなく、忍などという存在は姿を消して久しい時代。
 そんな中で辛うじて生き延びてきた天元の一族は、その忍の忍たる特性、すなわち非人間的なまでの非情さ・冷徹さを先鋭化させてきたのですが――しかしそれは、天元の姿からはうかがえないものであります。

 確かに鬼や同じ鬼殺隊に対しては容赦ない顔を見せる天元ですが、しかしその根底にあるのは鬼から人間を守る(それ以上に三人の妻を何よりも大事にする)という想い。
 それ以前にあの派手さや祭り好きは忍離れしているというのはさておき、このヒロイックな想いは、忍とはある意味対極にあるものでしょう。

 それでは何故彼は、忍らしからぬ忍となったのか、彼にとって鬼殺隊の任務とは何なのか――本編においてはわずか数ページの描写なのですが、しかしそれだけで彼のキャラクター性を、いや人間性をグンと掘り下げ、深めてみせる巧みさには驚かされます。

 初登場時にどうにもいい印象を抱けなかったキャラクターが、物語が進むに連れてグングン魅力的になり、別れがたい想いを抱かせるのは本作の得意技、煉獄の兄貴も同様でしたが今回もそのマジックにかけられたという印象です。
 もちろんそれは大いに望むところなのですが……
(もっともその一方で、煉獄のようなことにならないか心配で仕方がなかったのですが)


 そして有情の忍とも言うべき天元の存在は、今回の敵ともある種対極にあると感じられます。
 共に非人間的な扱いを受けて育ちながらも、それを乗り越え他人のために戦う人間と、その怨念のままに他人を殺し食らう鬼と――両者の対決がどのような結末を迎えるか、まだまだ戦いは終わらないのであります。

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