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2018.03.28

原哲夫『いくさの子 織田三郎信長伝』第11巻 小さな戦の大きな大きな意味

 巻数は二桁に突入したものの、まだまだ信長の向かう先は遠く長い本作。父・信秀を失った彼の新たなる戦いの始まりがここで描かれることになります。その戦いの相手とは、そしてその行方は……

 父・信秀(の影武者)を亡くし織田家の当主となった信長。しかし母と弟をはじめとして、織田家中は今川という大敵を前にしてもバラバラの状況であります。
 そんな貴様らが父を殺した! と父の葬儀で親族列席者一同に豪快に末香を叩きつけた信長は、早くも動き出した裏切り者を相手に戦いを挑むことになります。

 その相手とは、山口教吉――鳴海城主・山口教継の子であり、父ともども早々に今川に寝返って尾張を切り取らんと企む男であります。

 今川家の戦いの最初の一歩として山口家討伐を決意した信長は、その教吉が籠もる桜中村城に向かうものの、彼の手勢は小姓と馬回り合わせて八百、かたや山口勢は千五百。
 およそ二倍の戦力差があっても信長軍は意気軒昂、命知らずの若者たちとともに奇策で臨む信長の戦いの行方は……


 というわけで、この巻で描かれるのは赤塚の戦い――と言われても何? という印象の相当にマイナーな戦ですが、これは信長が信秀亡き後、織田家の当主となって初の戦いといわれる一戦であります。
 信長と、その出陣を見て打って出た教吉が城近くの赤塚で激突したこの戦、史実に残るところではかなりグダグダの戦いだったらしく、結果としては引き分けに終わったと記録されていますが――しかし本作はあまりにも地味なこの戦を、実に「らしい」形で盛り上げて描きます。

 何しろ、本作の信長には、ある意味彼以上にイキのいい若い連中がつき従っています。
 物語の始まりから信長についてきた者、途中の冒険から加わった者と実に様々ですが、いつの間にかその顔ぶれも多士済々。正直誰が誰かという感じにもなってきましたが――それはともかく、見開きで描かれた信長と仲間たちの勢ぞろいのビジュアルは、実にテンションが上がるものがあります。

 そしてそんな中でもとびきり目立っているのが、前巻のラストに登場した少年・孫太。
 信秀の影武者の子だった父亡き後自分たちも殺されると焦っていたところに現れた信長が、殺すどころか父を丁寧に弔い、百姓の自分を家来に加えてくれたことで、彼のテンションは常にMAXであります。

 とんでもない脚力を持つ彼は、ことあるごとに信長の傍らで跳ね回るのですが、そんな彼をライバル視する槍使いの犬千代の意気も軒昂で――と、この犬千代は言うまでもなく後の前田利家、だとすれば百姓出身の孫太は、と考えさせられるのも楽しいところであります。

 何はともあれ、そんな健康優良不良少年の群れを率いる信長が、さらにいかにも彼らしい悪戯めいた策(そのビジュアルがまた妙に可笑しい)をもって暴れ回るのですから、ただで済むはずもありません。
 結果としては史実どおりの引き分けですが、ここに描かれたものは、信長らしさ横溢の横綱相撲と言うべきでしょう。

 ……というかこの戦、ひげ船長のようなあからさまにおかしなキャラはほとんどいないにもかかわらず、登場人物のテンションが異常に高く、その状態が最後まで続くのが、これまた「らしい」ところという印象です。


 確かに、形としては小競り合いに近い戦いであります。この規模の戦にほぼ一巻かけて、この先どうするのだろう――という印象も正直なところあります。

 しかし逆に言えばそれで一冊保たせてしまうのが作者の技というもの。そして何よりも、作中で信長が仲間たちに告げるように、これこそが信長たちと今川とのいくさの始まりであります。
 そうだとすれば、史実の上では小さなこの戦も、大きな大きな意味を持つと見るべきなのでしょう。

 そしてその信長たちの次なるターゲットは、清洲城の実権を握る坂井大膳。作中では、顔面に物ぶつけられてばかりという印象の男ですが、この巻のラストで登場した姿は微妙に大物感があります。

 さて、うつけ者として巧妙に他者の目を眩ましつつ、信長はいかに清洲城を取るのか――本当のいくさを始めたいくさの子の活躍を楽しみにしたいと思います。


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