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2018.03.08

伊藤勢『天竺熱風録』第3巻 「らしさ」全開、二つの戦い!

 天竺・摩伽陀国のお家騒動に巻き込まれて窮地に陥った唐の外交使節・王玄策の奮闘を描く物語もいよいよ佳境。仲間たち、そして心ある人々の助けにより摩伽陀国を脱出した玄策と副官の蒋師仁は、ついにネパール・カトマンドゥに辿り着き、援兵を求めることになるのですが……

 唐の外交使節団として訪れた摩伽陀国で突如捕らえられ、投獄された王玄策一行。それが先王・ハルシャ王亡き後にその座に就いたアルジュナの仕業であることを知った玄策は、牢の隠し通路から、代表として師仁と二人、援兵を求めて脱出することになります。
 ハルシャ王の妹とその腹心の少女らの助けで王都を脱出した二人は、一路カトマンドゥを目指すのですが――しかしもちろん、容易くたどり着けるはずもありません。

 二人の後を追うのは、王都で二人を襲ったアルジュナ配下の怪人チャンダ・ムンダ。不死身とも思える生命力を持つムンダとその配下の兵に玄策と師仁が追い詰められたとき、そこに現れたのは――ネパール王国の美しき女将・ラトナ将軍!


 というわけで、漫画版が始まった時から気になっていたオリジナルキャラクターがついに本格的に登場することとなったこの第3巻。

 いかにも伊藤キャラらしいキリリとした美女である彼女の登場で、一気に画面は華やかに――なるだけでなく、ここから別の形で物語が緊迫の度合いを増していくのが、実はこの巻の最も大きな魅力であり、読みどころであります。
 その緊迫感の理由とは、ネパール軍人である彼女が登場したということと無関係ではありません。それは、ここから本格的に物語にネパールという国家が関わってくる、ということを意味するのですから。

 大きく言ってしまえば、これまで唐と摩伽陀の間の問題であったものに、第三国たるネパールが絡んでくるということであり――そしてそこから先が、そうそう容易く進んでいくはずもありません。
 王宮に伴われた玄策は、ネパールの若きナーレンドラデーヴァ王と対面するのですが――そこから先は単純に善悪の別や義侠心の有無では済まされない腹の探り合いである「外交交渉」が始まるのであります。


 ……が、まさにこれこそは玄策の本分。その豪快を感じさせるビジュアルやこれまでの活躍ぶりで忘れそうになっていましたが、彼はあくまでも文官の外交使節。
 そして唐という大国を代表して世界を飛び回る彼が、只者であるはずもない――と、肩書以外はほとんど無一物である彼が、真正面から王と渡り合い、己が求めるものを引き出そうと奮闘する様が実に面白いのであります。

 この外交交渉のくだりは、原作では正直に申し上げれば、いささか食い足りない部分の一つではありました。
 しかし本作においては作画者の作品が持つ理屈っぽさ(とケレン味)がいい意味に作用して、なかなかに読み応えある展開となっており、戦争とは異なる国と国の緊迫感あるぶつかり合いを堪能させていただきました。

 そして作画者らしいといえば、この後もまた別の意味で「らしい」展開が待ち受けます。
 ネパールのみならず、駐留していた吐蕃(チベット)軍の協力を受けることとなった玄策。しかし軍を誰が率いるかでラトナと吐蕃のロンツォン将軍が対立し、それを解決するために、将軍二人が一騎打ちの試合を行うことになるのであります。

 先に述べたように、凛然たる美女のラトナと、絵に描いたような豪傑のロンツォンと――あまりに対照的な二人のバトルは、格闘描写の迫力はもちろんのこと、その先の何ともいい意味でしょうもない展開の面白さもあって、シビアな展開が続いてきたこれまでの物語とは一風変わった味わいとなっているのが楽しいところであります。
(特に、戦いが決着した後のナーレンドラデーヴァ王と玄策のリアクションが素晴らしい)


 というわけで、物語の流れ自体は原作に忠実ながら、外交戦と格闘戦、二つの戦いを描いた個別の展開ではこれまで以上に作画者らしく、緩急のつけかたも巧みな内容となり、大いに満足のこの第3巻。
 いよいよ物語も折り返しに入った印象で、この先もより一層の「らしさ」に満ちた展開を楽しみにしているところであります。

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