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2018.03.15

夏乃あゆみ『暁の闇』第3巻 青年陰陽師を襲う二つの試練

 平安時代前期、帝の第一皇子に生まれながらも皇位に就くことのなかった悲劇の皇子・惟喬親王を中心に、宮中の権力争いに巻き込まれた若者たちの姿を描く物語の続巻であります。ついに宮中に返り咲くことを決意した親王をもり立てるべく動く人々の中、若き陰陽師・賀茂依亨も己の力を尽くすことに……

 過去のある事件が元で廃太子となり、逼塞していた龍の宮こと惟喬親王。偶然そこを訪れた依亨は、親王と対面した時に巨大な龍を幻視し、失われていた自分の霊力が蘇ったのを知ります。
 孤独な親王に心酔し、その力になることを望む依亨は、親王派の三位中将や頭中将とともに、その復権に尽力するのですが――その前に立ち塞がるのは、宮中で権勢を誇る左大臣一派であります。

 折しも、陰陽寮や神祇官が都への痘瘡神の接近を予言。これを奇貨として少しでも親王方の力を見せんとする中将たちに命じられ、疫神調伏を行うことになった依亨。
 衆人環視の下で調伏に挑むも、疫神の力と奇怪な幻視に苦しむ彼は、辛うじてその場は収めたものの力を暴走させてしまい、腕には奇怪な鱗が生じて……


 と、政治の世界と陰陽道の世界が交錯する本作らしい展開で始まったこの第3巻。儀式での術比べというのは陰陽師ものでは定番のシチュエーションでありますが、ここで描かれる疫神(?)の姿が、端正な不気味さとでも言うべきものがあって実にいい。

 絵柄的に決して派手ではない、むしろ抑え気味の静けさを感じさせる本作ですが、それだけにこうした異界の描写に不思議なリアリティと迫力が感じられるのであります。
(その結果、依亨の腕から生じた鱗の描写も、生理的に実に厭な感じなのがイイ)

 そして、この危機を親王の力を借りて何とか克服した依亨ですが、新たな、予想だにしなかったような危機が彼を襲うことになります。

 それは女装して宮中の女房たちに口コミで親王の無実(と左大臣の陰謀)を訴えること――と、それまでの耽美な世界から一気にノリとベクトルの異なる展開には正直なところ驚かされましたが、これはこれである意味説得力のある作戦かもしれません。
 何しろ政治の世界で恐るべきは人の噂。そしての時代、女御に仕える女房たちの口は、その源にして伝達手段だったのですから……

 だからといって女装させられるというのは、依亨がいいように中将連に振り回されている感もありますが、これも手駒の少ない親王方ならではの苦労――と見ておきましょう。


 と、そんな依亨の苦闘を文字通り高見の見物をしているのは、左大臣方の謎の双子陰陽師・右記と左記。
 何やら左大臣に雇われただけとは思えぬ怪しげな雰囲気を漂わせるこの二人、何と素顔は中年というのは少々意外でしたが、この先、依亨の強敵になることは間違いないでしょう。

 あとがきなどを読むに、必ずしも史実に即した物語ではない(というより大きく外れそうな)本作ですが、残すところは後2巻、物語の向かう先を虚心に楽しむこととします。


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