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2018.03.07

樹なつみ『一の食卓』第6巻 第一部完、二人の未来の行方は

 築地外国人居留地のパン屋・フェリパン舎を舞台に、パン職人の少女・明と藤田五郎(斎藤一)が出会う数々の事件を描いた本作は、残念ながらこの第6巻でひとまず幕。フェリパン舎を襲った危機に、明の下した決断は……

 と言いつつ、この巻の前半で描かれるのは再び過去編――江戸から京に向かった一が、試衛館の面々と再会し、新選組に加わる姿を描くエピソードであります。
(前置きなく始まったので、前の巻がどう終わったか、思わず読み返すことに――というのはさておき)

 貧乏御家人と思い込んでいた実家・山口家が実は会津藩の「草」であり、会津藩が京都守護職を任じられたことを機に、父から新たな草となることを命じられた一。
 その事実に激しく反発しつつも、愛する女性を殺した旗本たちを斬り捨てたことで江戸にいられなくなった彼は、斎藤一を名乗り京に向かうことに……

 というのが以前描かれた江戸編の内容でしたが、今回の京都編はそれに続く物語。会津藩の草として、時に人斬りも辞さぬ活動を続けていた一は、京に残った浪士組監視のため、同じく草の佐伯又八郎とともに潜入することになります。
 浪士組に接近早々、無頼の空気を漂わせる芹沢鴨と出会った一。そしてその直後、総司や新八、左之助ら懐かしい面々と出会った一ですが、歳三だけはよそよそしい顔を見せるのでした。

 江戸を発つ前、一に厳しくも温かい言葉を投げかけた歳三。その歳三の真意は――というわけで、早くもダブルスパイを務めることになった一の姿を通じて、プレ新選組の誕生と、それ以上に鴨という男の姿を描いてみせるこの京都編。
 その鴨像は、一をはじめとして、本作で描かれる新選組隊士たち同様、従来のイメージを大きく外れるものではありません。しかしその上で光るものを見せてくれるのが、本作流であります。

 このエピソードにおいては、一と鴨をどうしようもない流れの中で「世間の鼻つまみ」となってしまったという共通点を持つ者として描くのですが――その二人の間に、やはり同様の立場にある鴨の妾のお梅を立たせることによって、何とも言えぬ苦味を残す物語を描き出しているのが印象に残ります。
(そしてその中で、本作においては一と対照的な存在として描かれている総司のキャラを立たせるのも巧い)


 そして後半は再び物語は現在(明治)に戻り、描かれるのは、外務省主催の天長節の大晩餐会のエピソードであります。日本の威信をかけて行われるこの晩餐会の総料理長に選ばれたフェリックス。しかし彼は馬車に轢かれそうになった明を庇って腕を骨折してしまうのでした。
 自分のせいだと責任を感じた明は、晩餐会でのフェリの片腕となるべく、ある行動に出ることになります。しかしその晩餐会の陰ではある陰謀が進行していることを知った一は……

 と、冒頭に述べた通り、一応のラストとなるこのエピソードは、分量的にはわずか2回と少ないのですが、舞台の大きさや明の背負うものという点ではこれまでの展開を受けた締めくくりに相応しいものとも言える内容。
 これまで女性ながらもパン職人として奮闘してきた彼女が――というのは、厳しい見方をしてしまえば一種の後退と言えなくもありませんが、しかしこれはこれでわかりやすい覚悟の現れと言うべきでしょう。

 そしてそれを受けて、一が大きく心を動かすというのもそれなりに納得がいくところであります。
 どうやら時尾さんが存在しないらしい(としか思えない)本作において、女性については色々と背負ってしまった一が、明に感服以上の感情を抱くかはまだわかりませんが……


 この数巻の印象を正直に申し上げれば、グルメと新選組の両立はかなり苦しかった――というより、過去編のインパクトが本編を食ってしまった印象は否めない本作。

 しかし徐々に語られていく一の過去が、現在において奮闘する明によって明るさを取り戻していくというスタイルはやはり魅力的であっただけに、ここでひとまず幕というのは何とも勿体なく感じられるところです。
(ラストエピソードのタイミングを、廃藩置県――彼が仕えてきた会津藩の消滅に置いているのも面白かっただけに)

 次回作は既に新作にスタートしているだけに、第二部はあったとしても当分先のことになるかと思いますが――明が、一が、この先の未来に向かっていく姿を見たいと強く感じるのです。

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