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2018.03.02

山田睦月『コランタン号の航海 ロンドン・ヴィジョナリーズ』 魔都ロンドンに彼岸と此岸の境を見る

 ナポレオン戦争を背景に、彼岸と此岸の間を行くイギリス海軍コランタン号と、新任士官のルパートの活躍を描く物語の第2部であります。フランスでの任務を終え、イギリスに帰還したコランタン号とルパートを待つものはロンドン壊滅の陰謀――物語は核心に近づいていくことになります。

 死者の海に沈む伝説の都イスからカンベール伯アンリを救出したコランタン号。海軍省の召還を受けて上陸したルパートは、そこで身を寄せた伯父の家を飛び出したアンリ、そして彼の友達だという下町っ子のベッツィとアルジュンに出会います。
 折しもロンドンでは動物磁気を操るというメスマー主義者が跳梁し、ロンドン橋を中心に不穏な空気が高まる中、橋で不思議な女性の幻影を見るルパート。

 さらにコランタンの水兵の強制徴募に協力する海賊たちの幽霊(!)が暴走するなど、続発する奇怪な事件は、やがてアンリの伯父の家に隠されていたインドの秘宝「ガンガーの封じ珠」に収斂することになります。
 ついに暴動が勃発する中、ロンドン壊滅を目論む仇敵に戦いを挑むルパートとアンリ、アルジュン。そしてその中でついにコランタン号が――!


 前作『水底の子供』の航海描写・艦船描写があまりに魅力的だったために、ロンドンが舞台――つまり船上シーンはあまりないと知った時には、正直なところ少々ガッカリさせられた本作。
 しかしもちろんそれは早合点に過ぎるというもの。物語は海上から地上――それも魔都ロンドンを舞台にすることで、よりスケールアップ、ホラー的にも伝奇的にも大きな盛り上がりを見せ、そして世界観も大きく広がっていくのですから。

 前作のクライマックスで明かされた本シリーズの基本設定――それは、コランタン号が「あちら側」が絡む事件に対して派遣される特殊戦力であり、そして目下イギリスが死闘を繰り広げるナポレオンが、「あちら側」にも手を伸ばそうとしている、という「事実」でした。
 なるほどナポレオンとオカルトの関わりは(フィクションでは)しばしば描かれるところではありますが、なるほど、古怪な世界ではイギリスも負けるはずがないわいと、この設定を知った時にはニンマリさせられたものです。(本作で登場する海軍省の秘密部署の描写も、実にそれらしくて楽しい)

 そしてそんな設定を踏まえて、今回の物語の中心となるのが、そのイギリスの首都・ロンドン――それも、そのロンドンの陸と水を繋ぎ、そして二つの世界を結ぶロンドン橋というのには大いに納得。
 さらにそこにメスメリズムやインドの秘宝まで絡むという大盤振る舞いなのですから、盛り上がらないわけがないのであります。


 しかし本作でそれに勝るとも劣らぬ魅力を放つのは、主人公たるルパート自身の物語であります。

 産業革命に乗じて財を成した家に生まれ、それ故に孤独に、そして夢や不思議を否定して「現実的に」生きることを余儀なくさせられてきたルパート。そんな彼が、不思議の固まりのようなコランタン号に配属されるギャップがまた面白いのですが、しかしルパートにとっては笑い事ではありません。
 ついには科学の力でもって不思議を為すかのようなメスメリズムに惹かれていくルパートですが、しかし再び本物の異界に足を踏み入れた彼が悟ったものとは……

 ここで描かれるのは、一人の青年の成長の姿であるのはもちろんのこと、人は何故「ここではないどこか」を求めるのか――その一つの答えであります。
 彼岸の事物が当たり前のように描かれる物語だからこそ描けるその答えの見事さと、それを踏まえてなお現実の世界に生きようとする人間の姿に、大いに心を打たれる名場面。個人的には本作の中でも最も好きなシーンであります。


 全8巻のうち3巻というかなりのウェイトを占め、そして物語の折り返し地点でもある本作。
 確かにコランタン号の出番は少なく、海洋ものとしての要素は少ないのですが(しかし「強制徴募」というちょっと驚かされるようなシステムを幽霊海賊と絡めて描くのは本作ならではですし、第2巻ラストの艦長の台詞は最高に盛り上がる!)、このシリーズならではの中身の濃い物語であることは間違いないところであります。

 そして次なる舞台はまた意外な場所なのですが――それはまた近日中。

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