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2018.03.16

阿部暁子『室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君』 現実を受け止めた先の未来

 京と吉野に二人の帝が擁立された南北朝時代。この混沌の時代を舞台に、吉野――すなわち南朝の姫君が京で若き日の足利義満と世阿弥の二人と出会い、厳しい現実と直面しつつもそれに立ち向かう姿を瑞々しく描いた好編であります。

 足利幕府との戦も劣勢が続く南朝を立て直すため、数年前に北朝に降った楠木正儀を連れ戻すべく、男装して出奔した今上帝の妹・透子。しかし彼女は京に入って早々、あっさりと人買いに捕らえられてしまうのでした。
 そこで共に捕らえられていた美少女と、その手引きでやってきた高慢な青年武士たちにより救い出された透子ですが――しかし救い主の正体に大いに驚くことになります。

 美少女――いや女装した少年は観阿弥の息子・鬼夜叉。そして高慢な青年こそが、透子たちの宿敵たる足利義満だったのですから!

 そんな騒動の中で早々に正体がばれ、義満に捕らえられかけたところを、ひとまず観阿弥の家に身を寄せることとなった透子。
 そこで鬼夜叉たちと言葉を交わす中、自分が如何に世間知らずであったか痛感した彼女は、義満の小姓として幕府に潜り込み、幕府を巡る状況の複雑さを知ることになります。

 そんな中、義満の身に起きた大事件。幕府と南朝の間で、そして幕府内で大きな争いを引き起こしかねないこの事件が、自分の存在がきっかけで起きたと知った透子の決断は……


 これまで集英社コバルト文庫を中心に活躍してきた作者。本作は一般レーベルの作品ですが、しかしそのコミカルでライトな手触りは、作者のホームグラウンドの作品の延長線上にあるものとして感じられます。

 実は本作は、作者が以前コバルト文庫で発表した『室町少年草子 獅子と暗躍の皇子』とかなりの部分で共通点を持つ作品。
 続編というわけではありませんが、ないと思いますが、設定年代はほぼ同一、物語の中心となるのは俺様キャラの義満に、彼に振り回される美少年の鬼夜叉(後の世阿弥)というキャラクターには重なるものを感じます。

 しかしもちろん本作はあくまでも独立した作品であります。本作の主人公たる透子――亡き後村上帝の娘である彼女の目を通して描かれる本作は、『少年草子』と、いや他の南北朝ものと、一味も二味も違う物語として成立しているのですから。

 文字通りのプリンセスである透子は、長い黒髪をばっさりと落とし、供を一人連れただけで京に出てくるというバイタリティははあるものの、基本的には無菌に近い状況で育った少女であります。
 そんな彼女の目に映るのは、これまで見たこともない世界と、そこに暮らす人々。皇族・貴族中心の世界で生まれ育った彼女の見たことも想像したこともない様々な身分の人々が、そこには存在していたのです。

 そしてその代表と言うべき存在が、義満と鬼夜叉であることは言うまでもありません。
 幕府の長というべき地位にあり、傲岸不遜に振る舞いながらも、それだけに厳しい現実としばしば直面することになる義満。幼くして義満らを引きつける芸を持ちつつも、周囲からは蔑まれる身分にある鬼夜叉――透子は、二人を通じて、これまで気付きもしなかった現実を知ることになります。

 そしてその現実には、彼女がこれまで信じてきたような、わかりやすい南朝=善、北朝=悪という図式などは、存在しないことを。そしてその現実には重みと痛みが伴うこと、その前では自分はあまりにも非力であることを……


 しかし本作は、一人の少女が現実を知り、その現実に倦んでいく物語でも、その現実にすり潰される物語でもありません。
 彼女は、いえ、義満も鬼夜叉も――その現実を受け止めつつも、それでもなお、自分の望む未来を掴むべく、一歩一歩でも前進していこうとしているのですから。

 そんな姿は、特に透子のそれは、ややもすれば世間知らずの子供の青臭い理想論と見えるかもしれません。
 しかし子供だからこそ見えるものが、子供だから言えることがあります。そんな透子たちの姿は、室町という過去のある時代に置かれたものでありつつも、同時に、今に生きる我々にも力を与えてくれるものであります。

 コミカルな筆致と個性的なキャラクターたちによって南北朝期ならではの複雑怪奇な諸相を巧みに浮き彫りにしつつ、その中で、いつの時代も変わらない若者たちの姿を描き、現代の我々をエンパワメントしてみせる。
 これまで読んだことのないような室町の物語、作者ならではの物語を存分に堪能させていただきました。


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