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2018.03.14

万城目学『とっぴんぱらりの風太郎』上巻 プータロー忍者、流されまくる

 関西を舞台とした奇想天外な作品を次々と発表としてきた作者の、初の時代小説(を今頃になって紹介)であります。大坂の陣直前の京大坂を舞台に、失業忍者が奇怪なもののけと権力者たちの思惑に翻弄される姿を描く、ユニークな忍者ものです。

 幼い頃から伊賀で忍びとして育てられ、訓練で上野城の天守に潜入することになった風太郎と仲間の黒弓。
 しかし首尾良く天守に忍び込んだものの、途中壁に傷を付けたことなどから藤堂高虎の怒りを買い、二人は死を偽装してその場を逃れ、京に出ることになります。

 商才のあった黒弓と異なり、取り柄のない風太郎は、流されるままに日雇い暮らし。そんな中、かつての世話役・義左衛門からの頼みでひょうたん屋・瓢六に行くことになった風太郎ですが――その晩、因心居士を名乗る奇怪な老人が彼の前に現れます。

 居士の奇怪な術の前にきりきり舞いさせられた末、瓢六に届け物をすることになった風太郎ですが、黒弓のしくじりで失敗。
 今度は娘の姿で現れ、「ひょうたんを育てて、儂を大坂の果心居士のもとへ連れていけ」と告げる因心居士に反発しながらも、風太郎は成り行きからひょうたんを育てることになります。

 そして瓢六の依頼で高台寺に使いに出た風太郎は、そこでかつての仲間であり、今は大坂城に女中として潜入する常世と再会。
 そして彼女を通じて、ひさご様なる世間知らずの貴人を祇園祭に案内することとなった彼と黒弓は、そこで更なる騒動に巻き込まれることに……


 二年に渡り連載された大長編である本作。その前半部であるこの上巻では、かなりのボリュームを割いて、風太郎が周囲の状況に翻弄されるまま貧乏くじを引かされ、次から次へと面倒事を背負い込む姿を描きます。

 伊賀を追い出され、怪人・因心居士に取り憑かれ、貴人の護衛で死にそうになり、再び伊賀勢に引っ張りこまれて大坂冬の陣に参戦し――と書くと、何やら真っ当な忍者ものの主人公のようですが、凄いのはこれらの展開に、ほとんど全く風太郎の意思が働いていないこと。
 いや全くというのは大げさにしても、あるいは成り行きで、あるいは強いられて(あるいは疫病神の黒弓のおかげで)向かった先で騒動に巻き込まれる彼の姿を追っていくうちに、あれよあれよと物語が進んでいく様は、こちらまで因心居士の術にかけられたような気分になります。

 この、野心を抱いた若者が、都で妖しげな怪人に翻弄され、成り行きで歴史的事件に巻き込まれていく――というスタイルは、司馬遼太郎の『妖怪』を思い出しますが、そちらに比べて本作は(少なくともこの上巻の時点では)どこかすっとぼけた印象を受けるのは、作者流の人物造形の妙があるためでしょうか。

 そもそも風太郎は、「ふうたろう」ではなく「ぷうたろう」と読むことから察せられるように、戦国時代のプータローというべき青年。
 そこそこの夢はあるものの、そのために何か努力するでもなく、ただその日を生きることだけに追われるその姿には、奇妙な親近感が感じられます。(特に社会情勢に疎く、周囲の状況の変化に慌ててばかりのところは他人に思えない……)

 この辺りの人物造形、そしてユーモアとシビアさの絶妙なブレンドは作者ならではと言うべきかと思いますが、しかし物語が進むにつれ、現代を舞台にした物語では絶対描かれない展開が描かれることとなります。
 それは合戦――人が人を殺し、人の命が呆気なく消えていく場に、風太郎は放り込まれることになるのです。

 忍びとして無数の死を目にし、いざとなれば自分の手を汚すことも(あるいは他者を犠牲にすることも)躊躇わない風太郎。しかしそんな彼に対して、初めての合戦の場は大きな衝撃を与えます。
 覚悟も腕もない敵兵を殺す――それはまだいい。作戦のために民の家を焼き、兵ですらない庶民を殺す。面子のために味方を見殺しにし、体面のために味方を殺す……

 そんな戦の現実を前に、さしもの風太郎も、深刻な衝撃を受けるのですが――さて、その先で、風太郎は立ち直ることができるのか。彼は自分の意思で戦うことができるのか。彼の巻き込まれた事件の真実は、そして大坂城に執心する因心居士の正体とは?

 更なる意外な展開が待ち受ける下巻は近日中に紹介いたします。


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とっぴんぱらりの風太郎 上 (文春文庫)

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