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2018.03.25

山田睦月『コランタン号の航海 フィドラーズ・グリーン』 インドから最後の戦いへ、最後の航海へ

 彼岸と此岸の狭間を行くイギリス海軍コランタン号の冒険もこの第4部でいよいよ完結。秘宝・ガンガーの封じ珠を奪った宿敵ベシャール大佐を追ってインドに辿り着いたコランタン号ですが、想像以上の混沌たる状況にルパートは戸惑うばかり。そして冒険の果てに、ついに最大の敵と対峙したコランタン号は……

 かつてイギリスの手によってインドから持ち出された謎の秘宝・ガンガーの封じ珠を追ってロンドンからアフリカ、そしてついにインドに向かうこととなったコランタン号。
 到着早々、上空に女神の幻影を見るなど驚かされるルパートですが、さらに身分が高い夫が死んだ後、妻が焼身自殺する「サティー」の風習を知り、大いに戸惑うことになります。

 そのサティーを止めため、ウダル王国に向かうコランタン号ですが、逆にサティーを利用せんとしていたのがベシャール大佐。身内の思わぬ裏切りもあり、封じ珠の継承者であるアルジュンを奪われたコランタン号は、彼の故郷・ベナレスに急ぐことになります。
 しかしそこで起きた衝撃的な出来事により、事態は全く予想もしなかった方向に……


 19世紀のイギリスの海外進出の象徴ともいうべき国・インド。まさにその時代(の始まり)を描く本作において、インドが舞台となるのはある意味当然かもしれません。
 しかしそのインドは、イギリスに暮らしていたルパートにとっては異世界とも言うべき世界。風物も、文化も、社会制度も――全てが異質な世界に、ルパートは大きく戸惑うことになります。

 その最たるものが、本作の鍵ともなるサティーの風習でしょう。妻が夫に殉死するというその文化を、他国の目で見て一方的に批判することはできませんが――そして前作の経験からそうした見方の理不尽を知るルパートにとってはなおさら――しかしやはり大きな違和感があるのは否めません。

 そしてそのサティーは、かつてコランタン号のある人物の運命を大きく変え、さらにベシャール大佐が己の目的のために利用せんとするもの。
 それを思えば、この風習はインドという世界の異質さだけでなく、本作で繰り返し書かれてきた彼岸と此岸の境目をも象徴するものでもあるのではないか、というのはいささか牽強付会かもしれませんが……


 しかし本作は終盤において、このインドでの物語から驚くべき形の飛躍を見せ、最終決戦に突入することになります。

 それがどこに向けての飛躍であり、決戦の地で何が待ち受けているのか――それをはっきりと書くのはさすがに躊躇われるのですが、本シリーズの舞台となっているのがナポレオン戦争である、と申し上げれば十分ではないでしょうか。
 いや本当に、最終作の本作の舞台はインドなのに、どうやってこの戦争に繋げていくのだろう――と思いきや、こうきたか! と仰天必至の展開であります。

 しかし一歩間違えれば突然すぎるこの展開も、コランタン号が如何なる船であるか、ガンガーの封じ珠が如何なる力を持つものか、そしてルパートがその旅の中で如何なるものを見てきたのか――それを考えれば、十分に納得できるものでしょう。


 そしてこの最終決戦の果てに、物語は一つの結末を迎えることになります。そう、コランタン号の航海は、ここに終わりを迎えることになるのです。
 その別れもまた、いささか突然の印象もあり、そして何よりもあまりにも寂しいものなのですが――しかしそれもまた、これまでの物語を思い返せば、納得のいくものではあります。

 そしてそれはルパートにとっても一つの旅の終わりでもあります。すなわち、彼が常に抱いてきた「ここではないどこか」への憧れに対して、どう向き合うかの一つの答えが、ここに示されることになります。
 そしてそれを見れば、これは別れというよりも、新たな旅の始まりなのだと感じられます。一時は彼岸と此岸に分かれつつも、やがては「フィドラーズ・グリーン」――船乗りたちが死後向かう楽園で再び出会うまでの旅路の……


 ブルターニュ・ロンドン・アフリカ・インド――世界各地を、いやこの世ならざる地も含めて展開してきた本作。海洋冒険物語として、伝奇活劇として、一人の青年の成長物語として――素晴らしい作品であったと、改めて感じます。

 今はただ、ルパートたちのその後の冒険を夢見ていたいと、感じているところなのです。


『コランタン号の航海 フィドラーズ・グリーン』(山田睦月&大木えりか 新書館ウィングス・コミックス) 第1巻 Amazon/ 第2巻 Amazon
コランタン号の航海~フィドラーズ・グリーン~(1) (ウィングス・コミックス)コランタン号の航海 ~フィドラーズ・グリーン~ (2) (ウィングス・コミックス)


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