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2018.03.24

舞台『江戸は燃えているか』 メチャクチャ楽しいでは終わらない勝と西郷の替玉騒動

 西郷隆盛率いる官軍が迫る江戸。西郷は幕府側の代表である勝海舟と極秘裏に会談を望むが、気が小さい勝は会談は無理だと逃げ出してしまう。このままでは江戸が戦火に包まれてしまうと悩む勝家の人々は、勝に似ているという庭師の平次を身代わりに立て、西郷と会談させてしまおうとするのだが……

 新橋演舞場でこの3月に上演されている三谷幸喜の舞台『江戸は燃えているか』を観劇しました。江戸無血開城――勝海舟と西郷隆盛の会談によって江戸を舞台にした新政府軍と旧幕軍の全面戦争が回避された、この幕末史に残る出来事の裏側で起きていた(かもしれない)騒動を描いたコメディであります。

 三谷作品で勝海舟というと、やはり思い出すのは『新選組!』で野田秀樹が演じた勝海舟――べらんめえ口調でどこか人を食ったような人物、新選組に対しては決して好意的とは言えなかったものの、大局を見据えた一個の人物と描かれていた勝を思い出します。
 が、本作の勝は、べらんめえ口調こそ共通なものの、およそ逆――喧嘩っ早いが気が小さく、自意識過剰で調子に乗りやすい女好きという人物。なるほど、史実の勝を見ているとそういう側面も確かにあるように思えるのが面白いところですが、何はともあれ、面倒な男であります。

 その面倒な勝を演じるのが中村獅童ですが――これが実にはまり役。上に述べたような、江戸っ子の困った面を集めたような、大きな子供のようなキャラクターを、ほとんど最初っから最後までハイテンションで演じていて、これがもう実に楽しく、芸達者ぶりをには最後まで感心させられました。。
 その勝が逃げ出した後、金につられて勝の替玉を務める平次は松岡昌宏。『必殺仕事人』をはじめとして(そういえば獅童とは『必殺仕事人2013』で競演していました)時代劇にはそれなりに出ていることもあり、安定の存在感であります。

 その他、そもそもこの替玉を言い出した勝の娘・ゆめを松岡茉優、勝の妹婿・村上俊五郎を田中圭、西郷隆盛(ともう一人)を藤本隆宏、さらに勝家の女中頭・かねを高田聖子というキャスティングで、この手のキャラでは水を得た魚のような高田聖子をはじめ、皆熱演ぶりを堪能させていただきました。


 さて、お話の方は、急に事前交渉にやってくるという西郷から逃げ出した勝に代わり、平次が身代わりとなって西郷を応対――するんだけれども当然うまくいくはずがない。俊五郎やゆめ、かねが必死になってフォローするのを、事情を知らない勝家の他の人物が引っ掻き回していく――というのが一幕の展開。
 そして二幕では、何とか西郷との交渉を終わらせてほっと一息――と思いきや、やっぱり西郷と会うと言い出した勝に対し、ゆめたちが今度は西郷の替玉をこしらえて対面させるということになって……

 と、いやもうありとあらゆる手で笑わせにくる内容に、劇場は大盛り上がり、「新橋演舞場史上、もっとも笑えるコメディ」というスローガンも納得の内容でした。

 パンフレットによれば、懐かしのバラエティ番組『コメディーお江戸でござる』の舞台パートを意識したとのことで、言われてみればいかにもありそうな内容ではあります。 とはいえ江戸無血開城という大事件、様々なフィクションの題材にもなっているそれを扱った本作は、確たる史実を背景にしているだけに、ある種その反動からのおかしみというものが強烈に感じられました。
(劇中、勝と西郷の実にしょうもない(?)、しかし史実である、ある共通点がネタにされていたのも楽しい)


 しかし終盤に至り、本作は史実に向かって一気に収斂していくことになります。
 正直に申し上げて、この辺りの展開はいささか身も蓋もなさというか、これまでの騒動は何だったのかしら――という印象を受けたのですが、しかしその後に待ち受けるラストの意外な展開によって、この辺りは全て計算の上だったのかな、と考えを改めました。

 歴史は、その前面に立つ英雄たちのものなのか、はたまたその陰に隠れた無数の名もない庶民たちのものなのか?
 その問いかけに対して、後者の姿を中心に描きつつも、最後にガラリとひっくり返して、ある意味「正しい歴史」に変えてみせる本作。その結末は、それ自体「正しい歴史」に対する皮肉の意味を持つのではないか……と。

 もちろんこれは深読みのしすぎかもしれませんし(そもそも女性キャラのステロタイプな描き方をみるに、本作はそもそも庶民に好意的でない気もします)、ラストの展開もあまりうまく機能していない気もしますが――メチャクチャに楽しい、では終わらないのもまた、本作の味わいと言うべきでしょうか。

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