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2018.03.10

山田睦月『コランタン号の航海 アホウドリの庭』 アフリカで見た苦い真実と希望の光

 ナポレオン戦争を背景に、彼岸と此岸の間を行く英国海軍所属のコランタン号の冒険を描くシリーズの第3部は、アフリカを舞台とした物語であります。宿敵ベシャール大佐を追うコランタン号が戦いの最中に立ち寄ることとなった村。そこでルパートたちを待つものとは……

 ロンドン橋を破壊し、ロンドンを壊滅させようとしたベシャール大佐の陰謀を阻んだものの、その中で強大な力を持つというインドの秘宝「ガンガーの封じ珠」を奪われたコランタン号。

 かつてルパートによって水底の国から救い出されたアンリ、そして封じ珠の持ち主の一族であるアルジュンを新たに加え、コランタン号はアフリカに向かったベシャールの船を追うことになります。
 激しい海戦を繰り広げながらも、ベシャールを取り逃がすこととなったコランタン号。そればかりか戦闘中にメリーウェザー艦長が頭を打って人事不省となり、治療のために上陸を余儀なくされるのでした。

 初めは無人と思われた上陸地でしたが、そこで隠れるように暮らしていた祈祷師ロクワリアを指導者とする人々と遭遇することとなったルパート一行。
 歓迎とよそよそしさの入り交じった態度を見せる人々に戸惑うルパートたちですが、ある事件がきっかけに思わぬ窮地に陥ることになります。

 果たしてこの地に秘められた真実とは何なのか、そしてそれを知ったルパートは……


 単行本一冊分と、分量的には中編というべきこのエピソード。大作であったロンドン編、そしてラストとなるインド編の間ということもあって、地味な印象を受けなくもありませんが――しかしここで待ち受けるものは、これまでの物語同様、ルパートにとって大きな意味を持つものであります。

 アフリカに上陸したルパートたちが出会った集落の人々。善良で、どこか神秘的という――こういう表現はよろしくないかとおもいますが――いかにもな原住民的に描かれる彼らですが、しかし思わぬどんでん返しがクライマックスに待ち受けます。
(真実が明らかになるシーンには掛け値なしに仰天いたしました)

 それが何であるか、興を削がないようにここでは詳しく述べませんが、その真実は意外でありつつも、この時代の史実を踏まえた、確かにあり得るもの。そしてそれだけでなく、ルパートの依って立つもの・彼が信じてきたものを揺さぶり、そして同時に目を逸らしてきたものをつきつける――それはそんな意味を持つのであります。

 これまでの物語にも描かれてきたように、舞台となる19世紀初頭は航海技術等の発展により、ヨーロッパ人の行動範囲が飛躍的に広がり、アフリカに、アジアにまで広がっていった時代。
 それは彼らにとっては輝かしき時代の幕開けですが――その繁栄の陰にあったのは、収奪や搾取、侵略であったことも否めません。
(本シリーズ後半のキーアイテムとなるガンガーの封じ珠もそうしてもたらされた物なのですから……)

 そして、ルパートたちが正義の戦いと信じるナポレオンとの戦いも、結局は海外の領地の奪い合いに繋がっていくものだとしたら――それはルパートにとっては、厳しい真実というほかないでしょう。

 しかしその真実に打ちのめされながらも、なおもルパートがある人物に答えた言葉は実に彼らしく、そして人間と人間の間の可能性を信じる、希望に満ちたものであるのが嬉しい。
 そしてその答えは、これまで彼がコランタン号に乗って経験してきたものが導いたものであることは言うまでもありません。


 神秘的なものが当たり前のように登場する物語の中に、極めて現実的な、そして苦い真実を投入し、しかしその先に人の心の中の希望の光を見せる……
 物語全体のクライマックスを前に世界観を掘り下げると同時に、主人公の成長を丹念に描く、実に本シリーズらしい中身の濃い物語であります。

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