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2018.03.18

さちみりほ『花宵奇談』 豪腕女房と天然陰陽師が挑んだもの

 秋田書店やハーレクインで長らく活躍してきた作者による耽美な平安ホラー――に見せかけておいて、その実、霊感少女と天然陰陽師が怪事件解決のために奔走する、コミカルで時々泣かせる連作集であります。

 内裏に宮仕えに上った少女・玉響。彼女の目的はただ一つ、玉の輿に乗ること! ……であったのですが、一人の美青年に目を奪われたことから、彼女の運命は大きくわき道に逸れていくことになります。
 その青年こそは、かの安倍晴明から五代目の子孫であり、指神子の異名を持つ安倍播磨守泰親。しかしこの泰親、美青年でありながら、今一つアバウトで天然気味のどうにも頼りない人物だったのです。

 そんな折り、宮中では幼い三の宮がもののけに襲われるという事件が発生。実は霊感体質だった玉響は、無理矢理泰親に引っ張りこまれ、もののけ退治を手伝うことになるのですが……


 そんな第1話を皮切りとして、宮中や貴族の周辺で起きるもののけ騒動に玉響と泰親が挑む全4話構成の本作(後半2話は続き物)。
 泰親という有名人がメインキャラということもあり、いわゆる陰陽師ものに分類できる本作ですが、しかしそれが普通の陰陽師ものとも、ましてや平安ラブコメとも異なるのは、玉響のキャラクターによるところが大であります。

 何しろ玉響は、一見美しいの外見に似合わぬ強烈なキャラクター。決して幸福ではない生い立ちを背負いながらも、それをバネにして幸せを掴むべく猪突猛進、それを邪魔する奴は実力行使で叩き潰す! という精神的にも物理的にも猛烈にパワフルな女性なのであります。

 それが何の因果か泰親に(艶っぽくない意味で)見込まれ――というか利用され、もののけ退治に駆り出されては暴れ回るのですから、本人には申し訳ないのですが実に面白い。
 すっとぼけながらもおいしいところだけ持っていく泰親のキャラクターも相まって、この二人が一緒にいるだけで楽しくなってしまうのです。


 しかし、本作の魅力はそれだけではありません。本作の真の魅力は、登場するもののけたちと、その対極にある玉響の存在にあると言えるのですから。

 少々内容に踏み込んでしまいますが、本作に登場するもののけたちは、いずれも天然自然の妖魔というわけではありません。
 本作のもののけたちは、いずれも人の心が生み出した魔。その「心」とは、家族の愛に満たされない想い、満たされたいという想い――ここで描かれるのは、いずれもねじれた家族関係から生まれた哀しみや苦しみ、迷いから生まれたもののけたちなのです。

 そしてそこに、玉響が本作でもののけ退治役を務める真の理由があります。
 かつて両親の愛は美しい姉姫が一身に受け、自分は下女同様の暮らしを強いられてきた玉響。故あって姉の代わりに宮仕えに上がることになったものの、今もなお両親は自分に愛を向けることはない――そんな過去を背負う彼女は、しかしそれに押し潰されることなく、パワフルに今を生きているのです。

 そんな、親に愛されぬ哀しみを知り、そしてそれを乗り越えた彼女だからこそ、霊感の有無など抜きにして、もののけを祓うことができる――そんな本作の構図は、人間の強さ、たくましさと美しさというものを、これ以上なく感じさせてくれます。


 美麗な絵の中に唐突に挿入されるディフォルメされた絵柄、現代の事物や言葉を入れ込んだ表現など、純粋に平安ものを楽しみたい方にはちょっと敬遠される作品かもしれません。
 しかしここにはあるのは本作ならではのワンアンドオンリーの魅力。わずか単行本1巻ではありますが、微笑ましい結末も含めて、何とも好もしい作品であります。


 ……ちなみに本作の泰親、以前作者が岡本綺堂の『玉藻の前』を漫画化した『伝奇絵巻 玉藻の前』に登場したのと同じビジュアル(ご丁寧にあちらに登場した弟子二人も登場)。この辺りの遊び心も、何とも楽しいところであります。


『花宵奇談』(さちみりほ Beaglee) Amazon
花宵奇談

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