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2018.04.05

大柿ロクロウ『シノビノ』第3巻 無敵老忍者の強さと正しさ

 黒船に潜入したという実在の最後の忍び・沢村甚三郎の戦いもいよいよ佳境。首尾良く黒船に潜り込むことはできたものの、吉田松陰の暴走によって事態は悪化し、黒船の江戸攻撃の危機が迫る中、甚三郎はついにペリーと対峙することになるのですが……

 老中・阿部正弘により、ペリー暗殺の命を受けた甚三郎。いずれも異能の持ち主である部外戦隊を一蹴し、黒船の一隻に潜入、続いてペリーの旗艦に迫る甚三郎ですが――ここで双方にとって全く予想もしなかったイレギュラーが発生します。

 そのイレギュラーの名は吉田松陰。渡米のために黒船を奪取するという妄執に取り憑かれた彼は、人斬り少年・藤堂平助と弟子たちを指嗾して黒船に対してテロを敢行したのであります。
 この混乱に乗じて旗艦に潜入した甚三郎ですが、この暴挙を口実に、ペリーは黒船による江戸攻撃を指示。この事態を避けるためにペリー暗殺の命を受けた甚三郎にとって、そして何よりも江戸に暮らす人々にとって最悪の結末が迫る中、甚三郎は松陰と、そしてペリーと最後の対決に臨むことに……


 というわけで、この黒船編もこの第3巻で完結。
 自分の大望のためであれば周囲も、いや自分自身でさえも犠牲にして本望というファナティックな松陰、単なる指揮官ではなく軍人として自らの戦闘力を誇るペリーと、いずれも本作ならではのアレンジを施された二人の強敵が甚三郎の前に立ち塞がることになります。

 その強敵を相手に、甚三郎が如何に戦うか――それももちろん重要ではありますが、しかし真に重要なのは、彼が己の任務を果たすことであります。
 彼の任務――阿部老中に命じられたそれはペリー暗殺であります。しかしそれを果たせば、それで任務完了となるのか? その答えは否でしょう。

 彼は己が殺したいからペリーを暗殺するのではありません。あくまでもそれは手段であり、それによって江戸を戦火から守ることこそが、彼の任務の目的なのですから。
 その目的を果たしたときこそ、甚三郎は真の忍びとなることができる――そういうべきでしょう。
(そしてそれがそのまま、ある人物の悪意に対する反撃となるという終盤の構図が実に痛快であります)


 そんな甚三郎の戦いの結末はそれなりに見応えがあったのですが――しかし個人的には、少々違和感が残ったというのも正直なところであります。
 それは甚三郎が強すぎる、そして立場的に正しすぎるために、彼の勝利にカタルシスが感じられなかった、勝って当然の相手(それにしても黒幕の言動のリアリティのなさよ)に説教して終わってしまったという印象なのですが――それはおそらく、こちらがひねくれすぎているということなのでしょう。

 一見ただの老人が、歴史に名を残す偉人たちを正論でもって徹底的に論破し、若い女の子にもてて、自分の後を継ぐ弟子までゲットするというのは、それは一つの理想ではありますから。

 何はともあれ、任務を果たし、再び歴史の陰に沈むこととなった甚三郎。史実という軛から放たれた彼の強さと正しさがどこに向かうのか……
 この巻でちらりと姿を見せた幕末英雄の動きと、それに対する甚三郎の行動によって、本作の評価はまた変わってくることになるかと思います。


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