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2018.04.23

芝村涼也『討魔戦記 魔兆』 さらなる戦い、真実の戦いへ


 人間が異形の鬼に変わっていく世界を舞台に、鬼たちを狩る者たち・討魔衆に加わることとなった少年・一亮の戦いも、この第3作目で最初のクライマックスを迎えることになります。結界の中から人間たちを襲う鬼に対し、精鋭集団・弐の小組と共に挑む一亮たちの小組たちの戦いの行方は?

 鬼が引き起こした惨劇から、生来の鬼を感知する能力によって生き残り、討魔衆の僧侶・天蓋によって保護された少年・一亮。
 それ以来天蓋の小組に加わり、糸使いの健作、手裏剣の名手の桔梗と行動を共にすることとなった一亮は、ある任務で東北に向かうことになります。そこで大飢饉の最中、人を鬼に変えるおぞましい企てを進める鬼と戦い、その手中から他者の能力を増幅する力を持つ少女・早雪を救い出すのですが……

 という前作の物語を受けて展開する本作において描かれるのは、一亮たちが東北から連れ帰った早雪を巡って揺れる討魔衆の姿と、シリーズ第1巻から密かに跳梁を続けてきた強大な鬼との対決であります。

 「芽生えた」――鬼の力と本能に目覚めた者たちと人知れず対決し、これを狩ってきた討魔衆。しかし彼らが決して一枚岩ではないのは、これまでの物語の要所要所に挿入されてきた、討魔衆上層部の僧侶たちの会議の模様を見れば明らかであります。
 鬼との戦いと、そのための戦力の維持に向けた方針を巡り、幾度となく討論を続けてきた上層部。彼らは、使い方によっては(というより既にそう使われたのですが)鬼の力を遙かに高める少女の存在に大きく揺れることとなります。

 その一方で、かつて向島で幾人もの人々を殺めた鬼が活動を再開し、今度は水戸街道沿いで数多くの人間が犠牲に。
 異空間に潜んで一度に複数の鬼を繰り出し、襲いかかるその鬼の前に、天蓋たちの小組は圧倒され、一亮も為すすべもなく立ち尽くすのみという窮地――と、そこに駆けつけるのは、討魔衆の実戦部隊、弐の小組!

 無数の紙の蝶を飛ばし、そして扇子から水を放つ――弐の小組の頭である於蝶太夫の技は、そのまま彼女の表芸である浅草奥山の見世物のそれと変わりませんが、しかし死闘において見せるそれがただの芸であるはずもありません。
 一度鬼を前にすれば、華麗な芸がたちまち破邪顕正の技となる――強大な力を持つ鬼たちを前にしては劣勢を強いられがちであった天蓋の小組に対し、太夫をはじめとする弐の小組の強さは爽快ですらあります。

 それもそのはず、弐の小組は、壱・弐と二つしかない討魔衆のエリート戦闘集団の一つ。遊撃隊である(遊撃しか担当できない)天蓋たちに対し、鬼の力に真っ向から対抗できる貴重な存在なのであります。
 壱の小組は以前に顔見せ的に登場しましたが、実際の戦闘部隊がここまで本格的に登場したのは今回が初めて。正直なところ比較的地味な戦いが多かった本作において、その派手な活躍は強く印象に残りますが――それは裏を返せば、鬼との戦いが本格的なものとなったことにほかなりません。

 そしてそれが上に述べた討魔衆内部の動きと結びついた時、新たな悲劇の種が撒かれることとなります。
 結成以来、数百年にわたり鬼と戦ってきた討魔衆。しかし本作において、一亮がその事実の中にある一つの齟齬を指摘することにより、その背後に潜む、巨大かつ慄然たる真実が語られることになります。

 次々と新たな能力を得て、その企ても複雑化していく鬼たち。それはさらなる、真の戦いの始まりなのかもしれません。


 そして一亮たちの物語がいよいよスケールしていく一方で、本シリーズの一方の極である、南町奉行所の老同心・小磯による捜査も着実に進んでいくことになります。
 鬼の存在も討魔衆の存在も知らず、ただ彼らの戦いの痕跡を丹念に追ってきた小磯同心。極めてロジカルに人知を超えた戦いの存在に一歩一歩近づいていく彼の姿は、別の意味で極めてエキサイティングに感じられます。

 今回は比較的一亮たちとは離れた場所に留まっていた印象のある小磯同心ですが、彼の屋敷の間借り人との微笑ましいやりとりも含め、本シリーズに確かなリアリティを与える存在として、もう一方の主役と言うべきでしょう。


 少しずつではありますが、着実に事態は進展し、ついに新たな段階に入ったと言える本作。まさしく「魔の兆し」が現れる中、一亮は、小磯はどこに向かうのか――いよいよ激化する戦いから目が離せるはずもないのであります。


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魔兆 討魔戦記(三) (祥伝社文庫)


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