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2018.04.02

新井隆広『天翔のクアドラブル』第4巻 真の少年使節として彼らが得たもの


 異能を持つ四人の少年少女が欧州を席巻する悪魔たちと戦うために海を渡る天正遣欧少年使節異聞も、この第4巻にて完結。あまりに残酷な真実を知り、仲間を失いながらもなおも戦い続ける少年たちは、旅の最中に何を見て、何を掴むのでしょうか?

 インドのゴアで、少年使節たちを待っていた恐るべき真実。それは、少年使節を欧州に招いたヴァリニャーノこそが悪魔の僕であり、全ては彼らの力を利用せんとする企てであった、というものでした。
 悪魔が広めた黒死病の特効薬を開発した中浦ジリアンに深手を負わせ、悪魔の群れを率いて襲いかかるヴァリニャーノ。少年たちは、ジリアンがその身を犠牲にしたことで、辛くもその場から逃れるのでした。

 そしてそれから一年後――復讐に燃える千々石ミゲルとジリアンの妹・しゆんは、欧州の悪魔を撃滅する旅の中、強敵メフィストフェレスと対峙。
 しゆんの力を得てメフィストフェレスを撃破したミゲルは、彼女がジリアンの名を継ぐことを認め、ファウスト博士の口からヴァリニャーノと悪魔たちの王――鱗ある終夜の王の居場所を知ることになります。

 一方、伊東マンショと原マルチノは、漂泊の末にセントヘレナ島までやってきたものの、生きる希望を失い自らを侵す毒に屈しようとするマンショに対して、マルチノも打つ手がない状態。
 さらに、悪魔の襲撃を受けたことをきっかけに、その力を暴走させ半ば人ならざる者と化したマンショに対し、マルチノはかつて志能便の里で密かに与えられた使命に直面することになるのですが……


 復讐鬼と化したミゲル、まだ志能便としては未熟なジリアン(しゆん)、絶望に沈み死を目前としたマンショ、己の成すべき使命に戸惑うマルチノ。
 その年齢に比して大きすぎる使命を背負わされた上に全てに裏切られた彼らが、一度は絶望に屈し、そしてそれぞれに立ち上がるのは、やはり最高に盛り上がる展開であります。

 残念ながら連載の都合により、彼らの復活から再結集まではかなり駆け足ではあります。しかし贔屓目に見れば、それとても物語の勢いを減じることはなく――というよりも、盛り上がったままで一気呵成に決戦に突入し、その勢いのまま、最後まで駆け抜け、ゴールを迎えたという印象があります。

 特に最終決戦は、この巻のほぼ半分である5話分をかけてきっちりと描かれており、少なくともこの点においては、ほぼ不足はなく、描くべきものを描いてくれたと感じます。

 もちろん、そうは言っても、あとがきにあるように、本作が作者の当初の想定通りのものを描ききれなかったのは事実でしょう。
 振り返ってみればかなり細かいところまで設定されていたと感じられる世界観も、全てが語られたとは思えませんし、背負った過去などキャラクターたちの掘り下げも、まだ大きく余地があったと感じます。
(特にマルチノはかなり滑り込みで描かれた印象)

 さらに言えば、本作の鬼札とも言うべき信長も、(結末は同じだったとしても)もう少し描き方があったのではないかと思うのですが――しかし、それをここで言うのも詮無い話でありますし、何よりも、本作で描かれるべきものは描かれたと、僕は感じます。


 それは、四人の少年少女の結びつきの変化――冒頭から幾度となく描かれてきた「我ら血は四つに違えど、我ら心は一つに同じ」という言葉に示されるものが、同じ場で育った者たちの共感というものを超え、より大きな想いへと変化し、広がっていく姿であります。
 そしてその想いに近いものを探せば、それはやはり、キリスト教における「愛」と呼ばれるものでしょう。

 キリスト教を奉じる少年使節団とは言い条、実際には戦士として戦う術しか持たなかった少年たち。
 そんな彼らが、その戦いの中で欺かれ、傷つけられながらも、自分が自分であること、そして自分と他者が共に在ることの意味を知り、ついに真の少年使節として「愛」を得て帰還する……それは素晴らしいことではありませんか。
(そしてそれが悪魔の導きによるという皮肉も良い)

 完全な姿を見たかったという想いはもちろんあります。しかしこの物語が、この結末にたどり着いたことをまずは感謝したい――今はただ、そう思うのみであります。


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