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2018.04.03

山口貴由『衛府の七忍』第5巻 武蔵、二人の「父」との対峙の果てに

 昨年末の『このマンガがすごい! 2018』にランクイン(僭越ながら私も一票投じさせていただきました)し、これまで以上に勢いに乗る『衛府の七忍』。その第5巻で描かれるのは、鬼を斬る者・宮本武蔵編の後半と、そして六人目の怨身忍者・霧鬼編の開幕であります。

 大坂城から落ち延びながらも、落ち武者狩りの無惨に遭い、怨身忍者と化した明石全登の娘・レジイナ。フンガー・ざます・ガンスな感じの三人の供とともに人外と化した彼女に、幾人もの武者を血祭りに上げられた薩摩は、一人の武芸者に望みを託します。
 それこそが宮本武蔵――神童・佐々木小次郎を倒したばかりの彼は、荒っぽすぎる薩摩のぼっけ者たちの試しを難なく乗り越え、相応しい者に絶大な力を与える拡充具足をまとい、チェスト精神で鬼たちに挑むことに……

 というテンションの高すぎる前巻を受けて描かれるのは、武蔵と三人の従者、レジイナ、そして復活した魔人・明石全登との三番勝負。
 武蔵に勝るとも劣らぬ人外の存在との対決は、第4巻とはまた別の意味でのテンションの高さを貫いてみせた名勝負揃いであります。
(特に武蔵が拡充具足を赤sy――いや、石火憑着するシーンはケレン味溢れる名場面!)

 ……が、ここで武蔵の前に立ち塞がる真の敵がもう一人います。その敵の名は、宮本無二――十手術の使い手であり、武蔵の父であります。
 幼い頃から武蔵を辻に立たせ、命を的に銭を稼ぐ毎日を送らせてきた無二。その武蔵の少年時代の描写は決して多くはありませんが、彼が虐待というも生ぬるい扱いをくぐり抜けてきたことは想像に難くありません。

 いま最強の敵・明石全登――十字架を戴き、己の娘の死をも寿いでみせるこの父を前にした時、武蔵が同時に相手にするのは、「十字」を手に、己の息子の「死」を望む「父」の姿。
 この戦いは、既に最強の剣士となったはずの彼が、己の原点を乗り越え、なおも先に進むためのものであった――そう言えるのかもしれません。

 そして個人的に興味深かったのは、明石全登が武蔵を武芸人と呼び、武将からは一段低い存在と見られている点であります。
 無二が剣を既に無用のものと見ていた事も合わせれば、あるいは武蔵もまた、この先の時代に身の置き所のないまつろわざる者であったのかもしれませんが――しかしこの物語の結末において、彼はそれとは正反対の道を歩むことになります。

 「鬼」を斬る者の元祖とも言うべき大吉備津彦命――すなわち桃太郎。伝説の二人の剣豪を率いる彼が、武蔵を「鬼哭隊」に迎えることを暗示して――すなわち魔剣豪の誕生を描いて、この章は終わることになります。


 そして再び主人公は怨身忍者、真正の六番目であろう霧鬼の登場となるのですが――しかしこの章のタイトルは、再びこちらの度肝を抜いてくることになります。その名は――「人間城ブロッケン」!

 いやはや、ここで登場するであろう霧鬼は、本作の怨身忍者たちのモチーフである『エクゾスカル零』に登場するヒーローの一人・武葬憲兵霧。その霧は巨大武者・舞六剣を連れていたことを思えばその登場はむしろ必然、何ら不思議ではありませんが――時代ものの方でむしろカタカナになるネーミングセンスに脱帽であります。

 ……閑話休題、この人間城ブロッケンこそは、かつて武田信玄が三方ヶ原で後の天下人・家康を敗走させしめた武田の奥の手――信玄をその頭部に収める巨大ロボット。
 「人は城、人は石垣、人は堀」は言うまでもなく信玄の名言ですが、この世界においてその言葉の意味はこれであったか! とあまりのセンスオブワンダーぶりに震えるほかありません。

 しかし信玄の死とともにブロッケンは失われ、ただその起動に必要となる軍配のみが、諏訪家に残されるのみ。そしてその諏訪家の現当主・諏訪頼水が、ある娘を見初めたことから物語が動き出すことになります。そしてその娘の素性とは……
 いやはや、これまで数々のまつろわぬ民――徳川政権下で抑圧されることとなる社会集団の人々を描いてきた本作ですが、今度はこの人々か! と驚くほかありません。

 しかし物語の方はまだ始まったばかり、頼水とこの娘――てやが引き起こした波乱に巻き込まれるであろう少年・ツムグがこの先如何なる運命を辿ることになるのか?
 そしていまだ姿を見せぬ霧鬼、そしてブロッケンが如何なる形で登場することになるのか。一山越えてもう一山、先が見えぬ本作ですが、もちろんそれは望むところであります。


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