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2018.04.17

黒乃奈々絵『PEACE MAKER鐵』第14巻 さらば英雄 そして続出する病んだ人


 長きにわたり描かれてきた宇都宮城の戦いもついに終結。しかし本作におけるそれは、新撰組に欠くべからざるある人物の退場を意味します。というより、表紙の時点でもうこちらの瞳のハイライトも消えそうな気分なのですが――そんな衝撃もあって、病んだ人続出の第14巻であります。

 近藤を救うための条件として大鳥圭介の伝習隊に協力し、宇都宮城攻略に参加することとなった土方と(元)新撰組の面々。意外な人物の参戦もあり、一時は新政府軍を圧倒するかに見えたのですが――しかし敵の大火力の前には及ぶべくもありません。
 ついに追い詰められた土方。しかしその彼と新政府軍の間に立った者こそは、土方が救おうとしていた近藤勇その人でした。

 野村利三郎に引っ張られる形で新政府軍の陣から脱出した近藤。必死の逃避行の末に命を拾ったかと思えば、ここでそれを土方のために投げ出してしまうとはいかにも近藤らしい――といえばそのとおりなのですが、しかしこれは皮肉にもほどがある。
 かくて再び捕らえられた近藤は従容と首の座に向かうことになります。それを知った病床の沖田は、そして土方は……


 いやはや、こんな展開を食らっては、それは土方も病みます。ゲスモブと化した作者――と単行本のそで部分で自称しているので仕方ない――によってガンガン追い詰められた(夢の中での風呂焚きのシーンが鬼)土方は、とうとう刃物や縄状のものを周囲から遠ざけられるような状態になってしまうのでした。

 そんなわけで闘神から一転、病み状態となってしまった土方ですが、しかしもう一人同様の状態となってしまった人物がいます。

 それは、大化けした末に前巻では面白カッコ良いガンマンとして大活躍した市村辰之助。
 既に以前からその兆候はありましたが、鉄之助への依存というより執着はいよいよ暴走し、彼を戦場から遠ざけるためには命令を偽造(ここのところ主人公の出番がないと思ったら犯人がこんなところに!)、ついには土方に銃を向けるまでに……

 この巻の表紙は当然ながら近藤のインパクトに目を奪われてしまいますが、実はここにもう一つ描かれているのは、それに勝るとも劣らぬ悲劇――辰之助と鉄之助の決別。
 弟を戦場から、すなわち新撰組から引き離すために暴走する兄と対峙した鉄之助が、何を選ぶのか――それは言うまでもないものですが、それが辰之助に与えた衝撃は想像に難くありません(彼の主張もまた、ある程度理解できるものではあるのが哀しい)。

 そしてその果てに辰之助が向かう道は、我々読者は既に知っているのですが……


 その他、相変わらず忘れたころに現れて鬼畜プレイを繰り広げる鈴という元祖病みキャラもいるわけですが、さらにここに来て相当の代物が登場します。
 それは薩摩人でありながら、あまりの凶行の果てに自陣の牢に捕らえられていた男・所古伊周。細身で一見物静かにも見える彼の好物は、「二重の意味」で少年なのであります。

 舞台は伝習隊が転戦の末に向かった会津に移り、そこで新政府軍十数名を相手に獅子奮迅の戦いを見せる会津の少年兵・町野久吉(実在の人物)。その前に現れた伊周は……
 というわけで、町野久吉の最期については確かに薩摩兵などに×××たという話もあるのですが、それをここで、こんな形で書くか! と、こちらは愕然とするほかありません。

 度重なる衝撃シーンと度重なる病みキャラの登場に、ただただ圧倒されるばかりの本作。果たしてこの先どこに向かうのか、期待以上に心配になりますが――少なくとも土方はこのままで終わるはずはありません。
 その一刻も早い復活を、まずは祈りたいと思います。

 そしても一つ、ラストにはまた意外な人物が意外な役割を得て登場。こちらの展開も大いに気になってしまうところであります。

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