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2018.04.21

平谷美樹『江戸城 御掃除之者! 玉を磨く』 役人たちの矜持と意地を見よ!


 今年に入ってからわずか数ヶ月の間に『義経暗殺』『鍬ヶ崎心中』と力作を送り出してきた作者の次なる作品は、江戸城の掃除を担当する御掃除之者たちを描くユーモア時代小説の第3弾。今回もまた、御掃除者たちが思いも寄らぬ厄介事に巻き込まれては奮闘を繰り広げることになります。

 江戸城の掃除を担当する御家人・江戸城御掃除之者を束ねる組頭の一人である山野小左衛門。自分たちの地味な仕事にプライドを持ち、日々掃除に精を出してきた彼と配下たちですが、最近はおかしな事件に巻き込まれてばかりなのが悩みの種であります。
 どの事件も掃除に関わるものではありますが、どう考えても本来業務外の――それでも断るに断れない――仕事を押しつけられ、時に文字通り命懸けで奔走する羽目になったり、時に将軍吉宗と対面したりと、小左衛門たちの毎日はまことに波瀾万丈なのです。。

 そして今回彼らが巻き込まれる最初の案件は、江戸町奉行所――大岡忠相から持ち込まれたもの。生前、勝手方勘定衆として務め、役目を離れた後に大量のゴミを集めた末に亡くなった旗本・小野忠兵衛の屋敷の掃除を依頼されたのです。
 いかに掃除とはいえ、旗本屋敷の掃除は明らかに担当外。とはいえ、今をときめく江戸町奉行から持ち込まれた案件を断るわけにはいかない――と、小左衛門たちは芥屋敷の片付けに駆り出されるのでした。

 しかし奉行所からの依頼が、ただの掃除であるはずがありません。忠兵衛が役を離れた後も勘定衆時代の上役が彼の面倒を見ていたこと、禄に見合わぬ茶道楽に耽っていたことから、小左衛門たちは忠兵衛がある秘密を隠していたのではないかと考えるのですが……

 そんな第一話「小野忠兵衛様御屋敷御掃除の事」は、何ともタイムリーに感じられるエピソード。忠兵衛は上役の秘密をどこに隠したのか? あるいはそんな秘密などなく、忠兵衛は単に曖昧になっただけなのか? 次から次へと変わる状況に、小左衛門らは頭を悩ますことになります。
 そのミステリとしての面白さ、そして複雑な状況に頭を悩ます小左衛門を支える配下たちの暖かさと、見所は様々ですが、しかし何よりも印象に残るのは、全てが明かされた後に小左衛門が忠相にぶつける言葉でしょう。

 自分たち役人だって人間だ、勝手に上の意志を忖度させられた責任まで押しつけられて、そうそう黙ってられるものか!
 ……とまでは言わないまでも、そんな想いが込められた言葉は、我々現代の勤め人にとって、いやこの社会に生きる者にとって、何とも痛快に感じられるのであります。


 そして前後編的性格の、残る二話――「戸山御屋敷御掃除の事」「寛永寺双子堂御掃除合戦の事」も実に楽しいエピソードです。
 前者では小左衛門たちが戸山の尾張藩下屋敷に掃除指南に出向き、後者では江戸城の掃除担当の座を賭けて民間の相似業者と掃除勝負に挑むのですが――しかしその双方の背後に潜むのは尾張徳川家の思惑なのです。

 これまで管轄外の仕事ばかり押しつけられ、何とか解決してきた小左衛門たちを、こともあろうに尾張家は吉宗直属の凄腕隠密集団と誤認。その化けの皮を剥がし、恥をかかせんと尾張の隠密・御土居下組を用いて小左衛門たちを狙ってきたのであります。
 もちろんこれは勘違い以外の何者でもないのですが、勝手に疑心暗鬼に陥った尾張家は、小左衛門たちの一挙手一投足に警戒し、驚かされる羽目に……

 いやはや、ごくごく普通の人間が大物と誤解されて、周囲に振り回されたり振り回したり――というのはコメディのパターンの一つですが、それが本作ではエスカレートした末に、普通の掃除人vs忍者の攻防戦にまで展開してしまうのが実に楽しい。
 しかもそれだけに終わらずに、行政のアウトソーシングという問題を扱ったり(そしてそれに対する吉宗の回答も素晴らしい)、本シリーズの背骨ともいうべき、小左衛門の二人の息子を巡る面倒な状況が絡んできたりと、一ひねりも二ひねりもある展開を、最後まで楽しませていただきました。

 特に後者は、ようやく長男が心を開いて御掃除者見習いとなった一方で、次男の方は相変わらず父の仕事を嫌って反抗期、兄弟同士も微妙な空気に――と何とも身につまされる人も多そうな展開。

 それが今回も動きがあるのですが――いやはや、雨降って地固まるとはなかなかいかないものです。
 果たしてこの先、小左衛門たちを如何なる厄介事が待ち受けているのか。そして二人の子供との関係は――小左衛門には申し訳ありませんが、彼の奮闘ぶりが楽しくて仕方ないシリーズであります。


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