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2018.04.15

平谷美樹『義経暗殺』(その一) 英雄の死の陰に潜むホワイダニット


 兄に疎まれて奥州平泉に逃れた末、藤原泰衡に攻められて自刃したという悲劇の英雄・源義経。これまで幾度も義経と奥州藤原氏を題材としてきた作者が新たに描くのは、その義経が実は何者かに殺されていた、という意外な設定の時代ミステリであります。

 義経の影武者となった蝦夷の青年の目から源平合戦と奥州合戦を描く『義経になった男』(作者の歴史時代小説デビュー作でもあります)、かのシュリーマンが幕末に密かに来日して平泉に眠るという秘宝を追う『藪の奥 眠る義経秘宝』……

 東北を舞台とした作品が多い作者にとって、義経と奥州藤原氏は馴染み深い、というより扱う必然がある題材と言うべきかもしれません。
 そこに新たに加わったのが本作――タイトルの時点で非常にインパクトがありますが、内容の方はそれに負けない見事な作品。紛れもなく時代ミステリの名品であります。

 時は1189年、2年前に平泉に逃げ込んだ義経が、妻子を道連れに自害していたのが発見されたことから、物語は始まります。
 その状況に不審を抱いた藤原泰衡は、博覧強記にして記憶力抜群で知られる官吏・清原実俊に調査を依頼。かつて義経とはある縁のあった実俊は、現場を検分してたちどころに不自然な点を発見、これは他殺であると断じるのでした。

 兄・頼朝との対立の果てに、平泉に身を寄せた義経。庇護者であった藤原秀衡も義経が現れてからほどなく没し、藤原氏は鎌倉の求め通り義経を討たんとする泰衡・国衡と、義経を奉じて鎌倉と戦おうとする忠衡らに分かれ、いつ爆発してもおかしくない状態であります。
 さらに平泉には無数の鎌倉の間者も入り込んでいる状況で、ある意味、義経がいつ殺されてもおかしくはない状況だったのですが――しかし、だとしたら彼は何故自刃を装わされなければならなかったのか?

 これが鎌倉の刺客や、泰衡らの仕業であれば、堂々と義経を殺せばよい。しかしそうしなかったのは何故なのか?
 その矛盾に悩む実俊ですが、その一方で義経の家来である常陸坊海尊が義経の死と前後して姿を消し、平泉に残された武蔵坊弁慶らも不穏の動きを見せます。

 わずかな糸口から謎を追う中、意外極まりないもう一つの殺人の存在を知る実俊。そしてついに実俊がたどり着いた真実――事件の真犯人とその動機とは……


 と、意外な発端から、この時代と場所ならではのシチュエーションをもって、きっちりと時代ミステリを成立させてみせた本作。
 時代ミステリには有名人探偵ものというべき作品がありますが、さしずめ本作は有名人被害者ものと言うべきでしょうか。誰もが知る義経の悲劇的な死の真実、という趣向の見事さにまず唸らされます。
(ちなみに主人公の実俊はもちろんのこと、本作の登場人物のほとんどは実在の人物であります)

 何しろ義経の周囲は容疑者だらけ。義経を奥州百年の平和を乱す存在として除こうとしていた泰衡を筆頭に、嫡男でありながら母が蝦夷であったために家督を継げず複雑なものを抱えた国衡、対鎌倉の旗印となるべき義経が煮え切らない態度なのに不満を抱いていた忠衡……
 そんな複雑な状況(この辺りの各人の立ち位置は史実のそれを踏まえたものではあります)が、それがそのまま容疑者としての動機にスライドしていくのが面白い。

 そして何よりも、犯人探しに留まらず、その犯行の動機を――特に自害を装わせた点を問うというのが本作の最大の特徴と言えるでしょう。
 その不自然さについては上で述べたとおりですが、それでは何故、義経は自害という形で殺されたのか? そこにあるのは変形のホワイダニットとも言うべき謎であり、時代ミステリとしての本作の面白さをさらに高めているのであります。


 しかし本作の魅力はそれだけに留まりません。主人公のキャラクターもまた、なかなかに魅力的なのです。
 それは――長くなりますので、次回に続きます。


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