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2018.04.04

峰守ひろかず『帝都フォークロア・コレクターズ』 妖怪を追う者たちが見たモノ

 既に近代化の恩恵が隅々まで行き渡った大正時代――そんな中で妖怪伝承を集めるという奇妙な団体「彼誰会」に加わることとなった少女の目を通じて、妖怪にまつわる不可思議な事件の数々を描く連作集であります。

 今からほぼ百年前の大正6年(1917年)、勤め先を失って職探し中に見つけた、「彼誰会」なる団体の書記の採用試験に応募することとなった少女・白木静。
 まだ15歳と年若く、小柄だったことから初めは難色を示されたものの、ある身体的特徴に注目された静は一転採用されることになります。

 しかし採用されて初めて知った彼誰会の目的は、「百年使える妖怪事典の編纂」。
 そのために日本各地に残る妖怪伝承を集めているという彼誰会の調査に同行することとなった彼女は、訳がわかぬまま、石神射理也(いしがみいりや)、多津宮淡游(たつみやたんゆう)という二人の青年とともに、早速四国は徳島の山村に向かうのでした。

 詰め襟学生服に銀髪の生真面目な射理也と、着流しに女物のソフト帽をかぶった軽薄な淡游。全く正反対の二人と、現地で妖怪にまつわる伝承を聞いて回る静は、「コナキジジとゴギャナキ」なる妖怪に父を殺されたという少年と出会うのですが……


 妖怪などその手の話が好きな人間にとってはある意味身近に感じられる民俗学。しかしそれが日本で成立したのはごく最近であります。
 それまでは、民俗学に欠かせぬ調査手法であるフィールドワークも、一般の人々には耳慣れぬものであったに違いありません。

 本作は言ってみれば、そんな民俗学の黎明期に奔走したフィールドワーカーたちを主人公とした物語ですが――当然と言うべきか(?)、本作で描かれるのは、伝承の聞き取りで終わるような平穏無事な調査ではありません。

 四国では人々を襲うという「コナキジジとゴギャナキ」と対決し、伊豆では海から来る「みんつち様」と遭遇。紀州沖の孤島では奇怪な神を祀る人々の前に窮地に陥り、そして人助けのために都心で神隠しを追う……
 何故か伝承どころではなく実際に妖怪がいるとしか思えない事件に巻き込まれ、必死に事態収拾のために奔走する静たち三人の姿が、本作では基本ユーモラスに、時にシリアスに描かれることになります。

 この辺りの展開は、静・射理也・淡游の個性がそれぞれきちんと立っているところもあり――そしてそれがそれぞれのエピソードに陰に陽に絡んでいくこともあり――、キャラクターものとして実に楽しい内容。
 そして妖怪ものとしても、それぞれの事件で彼らが遭遇したものが、やがて彼誰会を私費で主催する「先生」の研究成果に結びついていく――というのは、お約束ですが、やはりニヤリとさせられます。
(「先生」の正体がわかり易すぎるのは、まあ仕方ないとして)

 物語の基調が賑やかでありつつも、失われゆくモノたちへの哀惜を感じさせてくれるのも、こうした世界が好きな人間にとっては嬉しいところであります。


 しかしながら物語の内容的には、正直なところ不満もあります。
 物語が地に足のついた展開のようでいて、意外な方向に転がっていくのは、これは構いません、というより大歓迎ですが――その転がり方が今ひとつ、という印象が強くあるのです。

 幽霊ならぬ妖怪の正体見たり――というのはともかく、それが地に足の着いたものではなく、そして奇想天外なものでもない。実は○○でした、の中身がベタ過ぎるといえばいいでしょうか……
 もちろんこれは全部のエピソードがそうではないのですが、特に後半2話は、登場する悪人の描写がちょっと驚くほど類型的で、妖怪の存在以上に、悪い意味で浮世離れした内容になってしまった――そんな印象があります。

 舞台設定やキャラクターなど、なかなか好みの作品であっただけに、このあたりは本当に勿体なかった、という印象が残った次第です。


『帝都フォークロア・コレクターズ』(峰守ひろかず KADOKAWAメディアワークス文庫) Amazon
帝都フォークロア・コレクターズ (メディアワークス文庫)

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