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2018.05.24

朝日曼耀『戦国新撰組』第3巻 彼らが選び、撰んだ道の先に


 新撰組が突如戦国時代、それも桶狭間の戦直前にタイムスリップしてしまうという、とてつもないシチュエーションから始まった本作もこの第3巻で完結。既に変わり始めた歴史の行き着く先は、そしてその中で新撰組の面々の向かう先は……

 突然、新撰組屯所から戦国時代にタイムスリップし、織田と今川の激突寸前の戦場に現れた新撰組。幕末では最強を誇る彼らも、戦が日常であった時代では分が悪く、初めは追いつめられるものの、大乱戦の中で主人公・三浦啓之助が信長を射殺したことで、大きく状況は変わることになります。

 その中で、織田家に士官しようとしていた木下藤吉郎と結んだ新撰組。しかし戦いの中で深手を負った近藤は、後事を土方に託し、壮烈な最期を遂げることになります。
 近藤の遺志を継ぎ、信長の跡を継いだ濃姫に仕えることになった土方と新撰組。初めは今川方についていた山南・沖田・藤堂も合流し、戦力を増したものの、しかし濃姫の近くに控える明智光秀の正体は、同じくタイムスリップした桂小五郎であることが判明し……

 と、戦国と幕末、それぞれの人物が入り乱れる上に、その生死が史実と変わっていくことにより、向かう先が見えない本作。
 何しろ史実通り今川義元を討ったものの、信長亡き後の織田家が極めて不安定な状況にあることは言うまでもありません。そんな状況だからこそ、新参の藤吉郎、そして新撰組にも台頭の余地があるのですが――さて濃姫の、そして光秀(桂)の次なるターゲットは美濃であります。

 信長が道三亡き後の美濃を攻略したのは史実にあるとおりですが、しかし繰り返しになりますが、本作はその信長も亡き状態。しかも美濃斎藤家――正確には竹中半兵衛の下には、行方不明となっていた最後の新撰組隊長コンビ、原田左之助と永倉新八の姿があるではありませんか。
 しかし史実では最終的に近藤らと袂を分かったこの二人が、戦国時代でおとなしくしているわけがありません。案の定、二人は未来の(幕末の)兵器までも持ち込んでいて……

 というわけで美濃攻めがメインとなるこの第3巻。既に史実とはブレ始めた歴史の中、しかも新撰組同士が激突する戦場で、この戦がどのような結末を迎えるのか、というのが眼目であることは言うまでもありませんが――しかし実はそれ以上に印象に残るのは、新撰組隊士それぞれが辿る運命の結末なのです。

 既に近藤が志半ばにして斃れるという意外な展開となったわけですが、しかし考えてみれば史実においても近藤はやはり志半ばで散ったことに違いはありません。
 だとすれば、他の隊士たちも? というこちらの予感を裏付けるように、生き残った隊士たちも一人、また一人と、あたかも本来の歴史をなぞるかのように……

 これぞ歴史の修正力――というよりは見立ての面白さと言うべきでしょうか。史実での運命をこういう形でアレンジしてみせるか、とニヤリとさせられるような展開を用意してみせるのは、これはやはり原作者のセンスというべきでしょう。
 しかしそうだとすれば、一人、気になる人物が存在します。そう、本作の主人公たる三浦啓之助が。

 史実では新撰組隊士とは名ばかりに適当に歴史の荒波をやり過ごし、実につまらぬ最期を迎えた啓之助。その彼は、この物語においてどのような運命を辿るのか?
 それをここで語るわけにはいきませんが、なるほど、ここでこの違いを使ってくるか! と一捻り(更に漫画ならではのキャラデザインを逆手にとってもう一捻り)した上で、ある種の希望を見せてくれる結末は、大団円と言うべきでしょう。

 正直なところを申し上げれば、歴史の流れを描く上でも、新撰組隊士の運命を描く上でも、もう一巻欲しかった、という印象は強くあります(無情なまでの呆気なさもまた、本作の味わいかもしれませんが……)。
 特に本作においてジョーカーとなるべきある人物が、あまりに呆気なく、便利に使われた感があるのは、勿体ない限りであります。

 それでもなお、新撰組+戦国という、ある意味身も蓋もない取り合わせを、二つの歴史を巧みに摺り合わせながらも再構成し、一つの物語として描き直してみせた本作は、もう一つの新撰組を語る物語として、見事に結末を迎えたと言うことができるでしょう。

 どれほど流されたように見えても、彼らは史実同様に自らの道を選び、撰んだのだと――そしてその先に確かに道は繋がっていたと、本作は描いてみせたのですから。

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