夏乃あゆみ『暁の闇』第4-5巻 過去と対峙し、乗り越えた先の結末
その才気で知られながらも、故あって朝廷を追われた悲劇の皇子と、幼い頃の才を失い、皇子と再会することで力を取り戻した陰陽師の姿を描く平安ファンタジーのラスト2巻であります。現世・幽世双方において朝廷に不穏な空気が漂う中、封印された二つの真実がついに明らかにされることに……
かつて宮中で乱行に及び、一度は流刑に処され、今は洛外で逼塞する惟喬親王。ふとしたことから親王の屋敷を訪れた陰陽師の青年・加茂依亨は、その出会いをきっかけにかつての力の一端を取り戻し、親王の復権を願う人々の一人として動くことを決意します。
その一環として疫神調伏を行うことになった依亨は、奇怪な双子陰陽師の妨害に遭って術が暴走。親王の力により、辛うじて己を取り戻すことに成功します。
そして依亨らの奔走もあって、ついに宮中に返り咲くこととなった親王。しかし今上帝を背後から操る左大臣一派は親王を除くために暗躍し、一方、その左大臣に追われて比叡山に上った最延法親王も、親王を支えつつも何ごとかを企む様子であります。
そんな中、疫神調伏妨害の証拠を掴んだ親王たちに対し、ついに実力行使に出る左大臣一派。さらに法親王も延暦寺の僧兵を動かす混乱の中、宮中から「鏡」が消えるという変事が発生することになります。
鏡の消失ことは大異変の前触れであることを知り、自分自身の力が暴走することも構わず、鏡を取り戻そうと異界に赴く依亨。そしてついに親王と依亨、二人の封印された過去が明らかになるのですが……
史実では皇位を継ぐことができず、隠棲のうちにその生涯を終えたという惟喬親王。本作はその親王をモチーフにして(と述べる理由は後述)、その復権を巡る人々の動きを、政治の世界と陰陽道の世界――すなわち此岸と彼岸の双方に軸足を置いて描く物語であります。
その構造はこの終盤においても変わることなく、そのそれぞれを代表するとも言うべき二人の主人公――親王と依亨は、それぞれの前に立ち塞がる試練と対峙し、そして同時に、自分たちが封印してきた/されてきた過去に向き合うことになります。
物語冒頭から仄めかされてきた二人の秘められた過去――宮中で忌まわしい乱行に及び、それがために廃太子され、配流という厳しい罰を受けた親王。幼い頃は強大な霊力を持ち、将来を嘱望されていたのが、いつしかその力を全て失ってしまった依亨。
本作は、共にこうした過去を背負った二人が出会い、支え合い、成長していく物語と言うことができますが――だとすれば、その結末はその過去を乗り越えた先にあるのはむしろ当然でしょう。
もちろんそれには大きな痛みを伴うことになります。知らなければ苦しむこともなかった過去、知ったとしてももう取り戻せない過去――その過去と向き合わなければならないのですから。
それでもなお、その痛みを受け入れつつも過去を乗り越え、その先に進む二人の姿を描く結末は、哀しくも清々しいものを感じさせてくれます。
と、それなりに盛り上がった本作ですが、個人的にどうしても残念な点が二つ。
一つは、結局左大臣が全ての悪事の源ということで収まってしまったこと――それ自体はさておき、左大臣が親王と対峙するには魅力のない悪役のための悪役であったのがもったいない。
おかげで終盤は親王側の一方的な勝ち戦的ムードもあり(まさかあのキャラまでも味方になるとは……)、逆転のカタルシスに欠けた点は否めません。
そしてもう一つは、ラストで親王が○○したことで、完全に歴史が変わってしまったことであります。
これは物語の流れ的にこれ以外の結末はないことは早い段階で予想できましたが、やっぱり歴史上の人物の名を使うのであれば、もうちょっと――というのは、完全に僕の趣味の問題ではあるかもしれませんが。
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