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2018.05.08

『お江戸ねこぱんち ほおずき編』


 驚いたことに通算でもう19号の『お江戸ねこぱんち』の最新号――「ほおずき編」というのは少々気が早い気もいたしますが、それはさておき今回もなかなか面白い作品揃い。以下、印象に残った作品を紹介します。

『猫と左官職人志願』(北見明子)
 働く女性が主人公の作品が多い本誌の中でも、個人的に一番楽しめたのが、題名どおり左官を目指す少女を主人公とした本作です。
 左官職人だった兄を喪い、代わりに自分がその道を目指すお葉。兄の親方には弟子入りを許されたものの、兄弟子たちの目は厳しく、なかなか認めてもらえずに落ち込む毎日であります。そんな中、ようやく兄弟子に作品を作ってみせろと言われたお葉は……

 という物語は定番ですが、明るさを感じさせる絵柄もあって気持ちよく読むことができる本作。何よりも、本誌に掲載される条件とも言うべき「猫」の存在が、物語にきっちりと絡んでくるのがいいのです。
 お葉の作品の仕掛けも楽しく、猫+女性職人ものとしてよくできた作品でしょう。


『平賀源内の猫』(栗城祥子)
 毎回史実との絡みと一ひねりを加えた物語で楽しませてくれる本作、今回、源内と猫の「えれきてる」、そして文緒が出会うのは、工藤平助の娘・あや子であります(と、ここでニヤリとする方もいるでしょう)。

 仙台藩の江戸常勤藩医という関わりもあって、伊達家の重臣に嫁入りを望まれたあや子。しかし相手の家は家格を鼻にかけた印象で、学問を愛するあや子にとってはどうにも馴染めない相手であります。
 それでも娘のことを思い、縁談を進めようとする平助に対し、相手が嫁入りを望んだ最大の理由が「お石様」のお告げだと知った源内は一計を案じて……

 悩める人に対して、源内がその蘭学の知識で一肌脱ぐ(そしてえれきてると文緒がフォローする)という基本フォーマットも楽しい本作ですが、やはり印象に残るのは、父に禁じられながらも漢学を愛し、学問を究めたいと願うあや子のキャラクターでしょう。
 娘を想いつつも「女性らしさ」という枠をはめてしまう平助と、そんなあや子の「自分らしさ」を認める源内の対比も巧みです。

 そして源内の計らいもあって、学問を続けることを決意したあや子。彼女が後にあの曲亭馬琴をも唸らせる学者になるかと思えば、こちらも笑顔になる結末です。


『猫江戸ものがたり』(山野りんりん)
 本誌の中ではかなり珍しい異世界ものの本作――猫が人間のように暮らすパラレルお江戸を舞台とした一幕であります。
 猫江戸の治安を守る見回り同心・猫野のダンナの一日を描く本作で描かれるのは、浮世絵から抜け出してきたように人間同然の暮らしを送る猫たちの元気な姿。それも単純に人間のパロディではなく、いかにも猫らしい描写になっているのが実に楽しいのです。

 その代表が、後半の舞台となる湯屋。湯屋といっても湯はおまけのようなもので、そこには何も入っていない箱がいくつも置かれていて、猫たちはそこに入って喜んでいるというのが、何とも「らしい」ではないですか。
 ダンナの娘のお侠なキャラも可愛らしく、シリーズ化して欲しい作品です。


『のら赤』(桐村海丸)
 今回ものんべんだらりと暮らす遊び人の赤助を狂言回しにした本作ですが、今回の主役は赤助の友人の女絵師・キヨ。これが粋でカッコいいお姐さんなのですが、感覚が斬新過ぎるのが玉にきず。描いた作品が斬新すぎて師匠をはじめて誰にも理解されず――
 と、そこで赤助の行動がもとで瓢箪から駒、という展開になるのですが、ちょっとトントン拍子にいきすぎの感はあるものの、ちょっと落語めいた明るい味わいは相変わらず魅力的です。


『猫鬼の死にぞこない』(晏芸嘉三)
 任務中に半身大怪我を負い、何者かによって猫の力を与えられた(元)隠密・彪真の活躍を描く本作ですが、今回は伝奇要素なし。隠密時代の仕事が原因で、彪真を付け狙う相手が現れ――と、彼の過去のエピソードが中心となります。

 (悪役が類型的ではあるものの)それはそれでなかなか面白いのですが、しかし本作最大の特徴にして魅力の「変身」なしはやはり残念。このままこの路線になってしまったら――と少々心配にもなります。すっとぼけたオチは何とも愉快なのですが……


 次は10月1日と既に発売日も決まっている本誌。約半年先ではありますが、安定した刊行ペースとなったのはありがたいことです。


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