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2018.05.23

横田順彌『時の幻影館 秘聞 七幻想探偵譚』 明治の科学小説家が出会う七つの怪事件


 明治SF研究の第一人者である作者による明治ものSFの中でも中核をなす、鵜沢龍岳ものの第一弾――昨年同じシリーズの長編『星影の伝説』と合本で復刊した全七話の短編集であります。新進科学小説作家である龍岳とその師たる押川春浪が次々と出会う、奇怪で不思議な事件の真相とは……

 明治時代に発表されたSFの研究から始まり、その中心人物とも言うべき押川春浪と周囲の人々の伝記執筆、さらには明治文化の研究といった活動を行っている作者。
 しかし作者の本分はあくまでもSF小説であり、この両者が結びついて明治時代を舞台としたSFが発表されたのは、むしろ当然の成り行きというべきでしょう。

 その第一作『火星人類の逆襲』は一大冒険スペクタクルというべき大活劇でしたが、続く本作は、それとは打って変わった、どこか静謐さすら感じさせる、奇妙な味わいのSF幻想譚を集めた作品集であります。

 科学小説家を志し、念願かなって斯界の第一人者・押川春浪に認められ、彼が主筆を務める「冒険世界」誌の連載作家となった青年・鵜沢龍岳。
 ある日、春浪からとある村で起きた奇妙な事件――ギリシア人の未亡人の住む屋敷が不審火で全焼した事件の調査を依頼された彼は、そこで春浪の友人である警視庁の刑事・黒岩四郎と、その妹・時子と出会い、行動を共にすることになります。

 目の不自由な老婆と、生まれつき目の見えない孤児の少年と暮らしていたという婦人。少年の目が手術で回復するという矢先、不審火で婦人と老婆もろとも焼け落ちた屋敷の跡からは、数多くの蛇の死体が……

 という記念すべき第一話『蛇』に始まる本シリーズ。そこで共通するのは春浪・龍岳・時子・黒岩の四人、そして春浪が主催するバンカラ書生団体「天狗倶楽部」の面々が、科学では説明のつかないような事件に遭遇することであります。

 数々の女性を毒牙にかけてきた男が蠍に刺し殺され、高い鳥居の上に放置された姿で発見される『縄』
 畝傍の乗組員を名乗る男が海の上で暴行されかけた女性の前に現れ、彼女を救って消える『霧』
 隕石が落ちて以来、病人がいなくなり、人付き合いが悪くなった村に向かった龍岳が不思議な女性と出会う『馬』
 突然龍岳と友人・荒井の前に現れた何者かに追われる男。その男が荒井の妹が事故に遭う歴史を変えたと語る『夢』
 日本人初の飛行実験中、突如飛行士が取り乱して墜落する瞬間、一人の少年のみが飛行士と何者かの格闘を目撃する『空』
 事故で沈没した潜水艦の艦長の上官が、自宅で頭が内部から弾け飛ぶという奇怪な死を遂げる『心』

 いずれも実に「そそる」内容ばかりですが、しかし本作の最大の特徴は、それぞれの物語の結末にあるかもしれません。

 作者が単行本のあとがきで、どの作品も「起承転結」ならぬ「起承転迷」もしくは「起承転?」となっていると語るように、どの作品も、一応は結末で謎は解けるのですが――しかしその真相が常識では計り知れないものであったり、更なる謎を呼ぶものであったり、何とも後を引くものなのであります。
 作中で春浪が(ある意味身も蓋もないことながら)「これは科学小説、いや神秘小説の世界だ」と語るような結末を迎える本作は、まさに副題にあるように「幻想探偵譚」と評すべきものでしょう。

 もっとも、この趣向は、一歩間違えれば「こんな不思議なことがありました」という単なるエクスキューズを語って終わりになりかねない点があるのもまた事実。
 特に『縄』のオチは、は、いくら明治時代が舞台の作品でも――と、何度読んでも(悪い意味で)唖然とさせられるものがあります。

 もちろんそれだけでなく、例えば『空』は飛行機という当時最先端の科学と、一種の祟りという取り合わせの妙が素晴らしい作品。
 さらにその怪異を目撃するのが少年時代の村山槐多というのもまた、登場人物のほとんどが実在の人物という本シリーズの特徴を最大限に活かした点で、何とも心憎いところであります。

 本作が全体を通じて、いずれも一種プリミティブなSF的アイディアに依っている点は好き嫌いが分かれるでしょう。しかし全体を貫く落ち着いた、ある種品のある文章には、何とも得難い味わいがあり、読んでいて不思議な安らぎを感じるのもまた事実であります。

 今回の合本は短編集3冊と長編3作を合わせて全3巻としたもの。近日中に本作と合本の長編『星影の伝説』、そして残る作品もご紹介したいと思います。

『時の幻影館 秘聞 七幻想探偵譚』(横田順彌 柏書房『時の幻影館・星影の伝説』所収) Amazon
時の幻影館・星影の伝説 (横田順彌明治小説コレクション)

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