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2018.05.03

田中啓文『シャーロック・ホームズたちの新冒険』(その一) 有名人探偵たちの饗宴ふたたび


 多芸多才の作家・田中啓文が、実在の、あるいは虚構の中で実在の(?)人物を探偵役に描くミステリ短編集の続編が刊行されました。いずれの作品も、お馴染みの人物が探偵役として、奇想天外なシチュエーションで活躍する作品ばかり。まさしく作者ならではの作品集であります。

 5年前に刊行された前作『シャーロック・ホームズたちの冒険』同様、 巻末の一作を除いて、いずれもホームズとは直接の関係がない名探偵を描く作品が収録されている本書ですが、いずれもユニークな作品揃い。以下、収録作品を一作ずつ紹介していきます。

『トキワ荘事件』
 ミステリではしばしば舞台となる(タイトルに冠される)「○○荘」。では日本で一番有名な○○荘といえば――というわけで本書の舞台となるのは、後に日本を代表する漫画家たちを次々と輩出したトキワ荘。漫画界の特異点のようなこの地を舞台に、ユニークなミステリが展開します。

 今日も若き漫画家たちが奮闘を続けるトキワ荘に現れた編集者・丸谷。某社の手塚治虫番である彼は、〆切当日になっても手塚が行方不明で、このままでは二ヶ月連続で連載に穴が空いてしまうと語るのでした。
 そこで丸谷の依頼に応え、手塚の代作に挑んだトキワ荘の面々は、協力しあって何とか〆切に間に合わせたのですが、描き上げたばかりの原稿がどこかに消えてしまい……

 というわけで、活気溢れる日本漫画界の創世期あるいは青春期の空気も楽しい本作。探偵役も藤子・石森・赤塚・寺田という錚々たる面々が努めることになりますが――実は原稿紛失の謎自体はそこまで面白いものではありません(というよりちょっと無理が?)
 しかしハウではなくホワイダニットの方はなかなか面白く、漫画界のある種の空気(と手塚治虫の逸話)に親しんだ者ほど、気付きにくい真相なのが愉快であります。

 そしてもう一つ、本作には隠れた(?)真実があるのですが――これは正直に申し上げてあまり必然性はないようにも感じられます。
 しかし彼らの存在が一つの分岐点に――それも明るい歴史への――なっていたとすれば、それはそれで素晴らしいことではあると、ちょっと良い気分になれました。


『ふたりの明智』
 名探偵で明智といえばもちろん小五郎。しかしタイトルは「ふたり」、もう一人有名な明智とは――その遠い祖先だという光秀であります。本作はその二人が競演するのであります。死の世界で!

 太平洋戦争中にさる華族邸に届けられた怪人二十面相の予告状。警視庁の中村警部も一度見事に出し抜かれ、明智小五郎が出馬するも、二十面相がまんまと密室から目的の品を盗んだかにみえたのですが――小五郎は皆の前で謎解きを始めることになります。
 しかしそこで何が起きたのか、気付けば死の世界にいた小五郎。そこは自分の死んだ理由がわからなければ天国にも地獄にもいけないルール、同様の立場の光秀を前に、小五郎は自分の死の真相を探ることになります。

 ……密室からの盗難の謎、明智小五郎殺害の謎、それに加えて明智光秀死亡の謎という三つを解き明かそうという本作。いくら何でもそれは――と思えば、それぞれにきっちりと謎が解かれてしまうのはなかなか面白い。
 とはいえ、かなり強引に感じられる部分もあって、特に二番目の謎は、その結末も相まって、どうにもすっきりしないものが残ります(三番目の謎までくると、もう作者らしいとしか言いようがないのですが)。

 この辺り、謎を語るために作られた世界が、逆にその物語を縛る形となってしまっているというべきでしょうか……

 これはちょっと核心に触れずに書くのが難しいのですが、戦前と戦後の乱歩の作風の違い(そして○○○○の年齢の謎)に一つの回答を与えようとしているようにも感じられるのですが、どうにもすっきりしないものが残る結末でした。


 残る三話は次回ご紹介いたします。


『シャーロック・ホームズたちの新冒険』(田中啓文 東京創元社) Amazon
シャーロック・ホームズたちの新冒険

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 「シャーロック・ホームズたちの冒険」(その二) ミステリとして、新解釈として

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