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2018.05.21

道雪葵『女子漫画編集者と蔦屋さん』 逆ハーレム? 江戸の出版界の変人たち


 お仕事ものというべきか、有名人ギャグというべきか――なんと現代の漫画編集者の女性が江戸時代にタイムスリップ、出版社の元祖ともいうべき蔦屋の下で、様々な浮世絵師・戯作者たちと賑やかな毎日を繰り広げるという四コマ漫画であります。

 祖父の家で、漫画の原点ともいうべき黄表紙を手にした途端、江戸時代にタイムスリップしてしまった女子漫画編集者の千代子。そこで当時飛ぶ鳥を落とす勢いの出版人・蔦屋重三郎と出会った彼女は、なりゆきから彼の店で働くことになります。
 現代でも過去でも変わらぬ(?)編集者の仕事をこなすなかで、後世に名を残す文化人たちと出会う千代子ですが、彼らはいずれもイケメンながらどこかヘンで……

 と、問答無用でタイムスリップした現代の女子編集者(同人経験アリの腐女子)が、江戸の出版界に飛び込んで――というと真面目な(?)お仕事もの、あるいは逆ハーレムものに見えるかもしれませんが、本作の眼目は登場する文化人のエキセントリックなキャラクターであります。

 何しろ、メインキャラたちがこんな調子なのですから――
蔦屋重三郎:人の心に無頓着な根っからの商売人
喜多川歌麿:重三郎にベッタリのオネエ浮世絵師
葛飾北斎:仕事に打ち込むと周囲が見えない浮世絵馬鹿
東洲斎写楽:常に能面を被った超引っ込み思案
曲亭馬琴:上から目線の俺様ドS
山東京伝:何事も体験してみないと気が済まない天然

 いずれもタイプの異なるイケメンなのはお約束ですが、こんな面子とラブい展開になるはずもなく、唯一の現代人かつ常識人である千代子が、彼らの行動にツッコミを入れる――というのが、毎回の定番であります。

 しかし上で述べた文化人たちのキャラクターは、本作独自のキャラ付けも多いものの、しかしその背景となっているのはきっちりと史実通りなのが、本作の最大の魅力であります。
(たとえば馬琴が蔦屋に奉公する前に、武士が商家に奉公できるかとわざわざ名を変えたエピソードなど)。

 また作中で取り上げられる(ネタにされる)作品も、馬琴の「尽用而二分狂言」や京伝の「江戸生艶気樺焼」など、もちろん実在の作品。
 江戸の黄表紙のユニークさ――というよりぶっ飛び具合は、時にネット上で話題になることもありますが、本作でも漫画らしくデフォルメされているものの、描かれる内容はなるほど原典通り。そこに千代子がツッコミを入れることで、さらにおかしみが増してくる、その塩梅も実に良いのであります。

 細かいことを言えば、黄表紙を漫画の先祖として強調するあまり、馬琴や京伝が現代でいう漫画業界の人間のような描写になっている点は気にならないでもありません。
 また馬琴が手代になった時期と京伝が手鎖くらった時期は逆ではないかな、など史実の上でのツッコミもありますが、それはさすがに野暮というものでしょう。

 基本的に(これ大事)史実を踏まえつつ、ギャグでデフォルメすることでその人物の存在やその作品の楽しさ、意義を描いてみせるというのは、これはやはり愛があって初めて為せるものであることは、間違いないのですから……

 ちなみに本作の舞台は寛政年間(1790年代初頭)。寛政といえば松平定信によって出版界が規制された寛政の改革ですが、本作のラストエピソードでこの改革が登場人物たちに与えた影響もきっちり描かれることとなります。
 もっともそれも笑い飛ばすのが本作、ラストは本当にギリギリのひどい(ほめ言葉)オチで終わるのですが……

 もちろんこの後もまだまだ元気な江戸の出版人。ここで終わるなんてもったいない、まだまだ愉快でパワフルな彼らの姿を見せてもらいたいところであります。

『女子漫画編集者と蔦屋さん』(道雪葵 一迅社ZERO-SUMコミックス) Amazon
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