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2018.05.11

『いとをかし 板橋しゅうほう奇想時代劇漫画集』 異才の描くバラエティ豊かな時代漫画集


 以前にも似たようなことを申し上げましたが、最近の電子書籍は、書籍の電子化のみならず、単行本未収録の作品がオリジナルの単行本として発売されるようになったのが嬉しいところであります。本書もその一つ――副題通り、板橋しゅうほうの時代漫画を集めた短編集です。

 板橋しゅうほう(現在は「SYUFO」名義で活動)と言えば、早くからアメコミの画風・作風の影響を受けたSF漫画家――という印象が強い作家。
 そのため、恥ずかしながら本書を手にするまで、作者の時代漫画を読んだことがなかったのですが――ここに収録されているのは、いずれも「奇想」の名にふさわしい、五編の時代漫画であります。

 以下、簡単に内容を紹介すれば――

『人斬り雀』(SYUFO侍異聞)
 虫も殺せぬ男と言われながらも、不義密通した新妻の相手をあっさりと斬ってのけた青年武士・田中雀三郎。しかし相手は旗本の長男で幼馴染みの兄、仇討ちに出てきた旗本たちを相手に雀三郎の剣が唸る!

『喰らうは地獄』(SYUFO怪異譚)
 二百人以上の極悪人を素手で殺したという怪僧・赤蓮。殺した者の魂を背負った彼の次の標的は、自分に逆らった相手を一家皆殺しにした殺人鬼・石黒三兄弟だった……

『江伝のうなぎ』(SYUFO怪笑譚)
 十年前に家を出た父を探して江戸に出てきた茂太郎は、ある晩夢の中で父に「壺に鰻を入れるんや」と告げられる。鰻屋でその壺を手に入れた茂太郎は、父の生まれ変わりだという鰻と出会い、その言葉通りに江戸中を巡ってみれば……

『赤鰯(レッド・サーディン)』(SYUFO妖刀譚)
 見かけは赤鰯ながら、その正体は相手の魂を斬り、六道輪廻を断つという妖刀「六道斬」。鳴海敬之進は、対立する一門から辱めを受け、復讐のために妖刀を手にして狂った師と対峙する。

『開けるべからず』(忍びの者異聞)
 居酒屋で「穴があったら入りてえ」とぼやく男・半助。さる武士の屋敷に二十年間入り込んでいた忍びの者だという彼は、ある理由から、山田浅右衛門に挑もうとしていた……


 上記のカッコ内は各作品のタイトルページに付された角書ですが、それに相応しいバラエティに富んだ作品揃いの本書。

 作者の独特の濃い画風は想像以上に時代劇にマッチしていたものの、正直なところアクション描写は時代劇特有のテンポとはちょっと食い合わせがよろしくない……
 という印象はありますが、『人斬り雀』『江伝のうなぎ』のような独特のすっとぼけたユーモアが感じられる作品はなかなか魅力的であります。

 しかし本書で一番の収穫は巻末の『開けるべからず』ではないでしょうか。
 とある武家に忠僕として仕えつつも、その実、武家の害になる任務を強いられてきた忍びが、ついに武士を辞めるという主の最後の名誉を守るために一肌脱いで――という展開も十分ユニークなのですが、凄まじいのが結末の展開。

 徒手で首斬り浅右衛門を相手にすることになった彼が、浅右衛門を圧倒し、主の名誉を守り、そして己の身を処すのにいかなる手段を取ったか――実に時代もの・忍者もの的に見事な内容に納得しつつも、その凄まじさに絶句するほかない、忍者漫画の名品であります。


 作者の少々意外な側面を見ることができる本書、Kindle Unlimitedに収録されていることもあり(というより作者の作品は現在かなりの数がUnlimited化されているのですが)、興味をお持ちの方はぜひご覧いただければと思います。

『いとをかし 板橋しゅうほう奇想時代劇漫画集』(板橋しゅうほう 三栄書房) Amazon
いとをかし 板橋しゅうほう奇想時代劇漫画集

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