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2018.05.31

モーリス・ルブラン『カリオストロ伯爵夫人』 最初の冒険で描かれたルパンのルパンたる部分

 美少女クラリスと将来を誓い合っていた20歳のラウール・ダンドレジー(ルパン)。「七本枝の燭台」を求める怪しげな一団と共にジョゼフィーヌ・バルサモなる美女を私刑にかけるのを救ったラウールは、名うての女盗賊だった彼女と激しい恋に落ち、共に冒険を繰り広げようになるが……

 『ルパン逮捕される』で初登場し、以後断片的に過去の物語が描かれてきたルパン。しかしその初登場から実に19年後に発表された本作において、彼がルパンとして立った最初の冒険が描かれることになります。
 いわば本作はアルセーヌ・ルパンのエピソード・ゼロを描く物語なのであります。
(そんな作品が描かれたのは、ルブランがルパンシリーズの掉尾を飾るために、最後と対応する最初の冒険を描いたものとでしょうか。その「最後の冒険」はそれからさらに先の発表になるのですが……)

 いずれにせよ、これまでルパンシリーズ(とシリーズ外の『女探偵ドロテ』)で語られた四つの謎の存在をさらりと作中で語るなど、ルパン・ユニバースの確立に一役買っている本作。そしてその謎というのが、かの伝説の怪人・カリオストロ伯爵ことジュゼッペ・バルサモ由来のもの、というのも、何とも嬉しいではありませんか。

 ルパンといえばミステリ、ピカレスクであると同時に、伝奇もの冒険ものとしての性格を色濃く持つ印象があります。
 本作で語られる七本枝の燭台の秘密も、フランス革命で命を落とした修道士が遺した莫大な財宝の在処を示すものとして、伝奇色濃厚。当然、ルパン最初の冒険も、伝奇活劇になるかと思われるのですが……

 しかし、むしろ恋愛ものと呼びたくなる内容なのが、本作の面白いところでしょう。
(もちろん、終盤に明かされる宝の在処は、伝奇性とロマンチシズム濃厚で実に素晴らしいのですが)

 その恋愛の相手というのが、本作のタイトルロールであるジョセフィーヌ(ジョジーヌ)・バルサモ。上で述べたカリオストロ伯爵の娘を称する人物であり、数十年変わらぬ美貌を持つという妖艶な美女です。

 そもそも本作の冒頭で語られるのは、若きラウール(ルパン)が美少女クラリスと恋に落ち、彼女との結婚を夢見る姿。
 しかし男爵の娘である彼女に対し、ラウールは無位無冠の青年、当然ながら結婚に激しく反対する父親の弱みを握るべくその周囲を探ってみれば、彼はボーマニャンなる怪人物の配下として、七本枝の燭台の秘密を追っていて――という展開になります。

 そしてそのボーマニャン一派と対立していたのがジョジーヌ。成り行きから彼女を救ったラウールはクラリスのことはコロッと忘れ、ジョジーヌの盗賊稼業を助けつつ、彼女との愛に溺れることになるのです。
 ルパンといえば、数々のヒロインに惹かれ、愛し合った男という印象もあります。しかし本作のルパンはその片鱗を見せつつも、年齢も盗賊としての経験も悪党としての器も遙かに上の、文字通り美魔女に翻弄されるのが、いかにも若さを感じさせて微笑ましい(?)ではありませんか。

 その一方で面白いのは、ジョジーヌの側も単なる打算や色欲だけでなく、真剣にルパンを愛してしまうことであります。
 そんな二人が互いに互いを求め合い、翻弄し合い、やがて敵として激しく憎み合うという、その関係性の複雑さが、本作の面白さのかなりの部分を占めていると感じます。

 しかし本作はそんなルパンの若さだけを描くものではありません。本作では同時に、ルパンのルパンたる部分――人から物を盗む悪党でありながらも、決して超えてはならない(と彼が自身に誓った)一線の姿を描き出すのですから。

 それは言ってみれば徒に人を傷つけないこと――人を殺さず、拷問などはもってのほか。あくまでも怪盗「紳士」、それがアルセーヌ・ルパンであると、本作は描くのです。その一線を越えた存在――そう、ジョジーヌの姿と対比することによって。
 たとえどれだけ愛し合おうと、強く惹かれようと、平然と一線を越える相手は愛せない。許せない。ある意味それも若さ故かもしれませんが――しかしそれこそが我々のよく知るルパンの姿であり、彼の魅力の一つであることは間違いありません。

 なるほど本作はルパンのエピソード・ゼロであると、感じさせられた次第であり――そしてそれを描いた物語を巧みに織り上げてみせたルブランの手腕にも、改めて感心させられるのです。

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