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2018.05.05

宇野比呂士『天空の覇者Z』第2巻 天馬vs死神、天馬vs獣人!

 秘密兵器・Z砲を使用し、一撃で超巨大砲もろともナチス基地を壊滅させたネモ艦長。しかし真のヒトラーの厳命を受けたナチスによって送り込まれた空賊・Jによって、アンジェリーナは捕らえられ、秘密研究所に送られてしまう。人質にされていた仲間を惨殺されたJと共に、天馬は研究所に乗り込む。

 天馬の活躍によりついに離陸したものの、いまだ全ての能力を発揮していない状態で800ミリ砲・ジークフリートの攻撃を食らい、大ピンチのZ――というクリフハンガーで始まったこの第2巻。天馬の奮闘と、ネモ艦長に恩義を感じるリヒトホーフェンのナイスフォローで時間を稼いだものの、再攻撃はもう目前――この絶体絶命の危機にネモはZ砲の発射を命令、艦内に戦慄が走るのでした。
 巨大な鋼鉄の塊であるZを浮かせる原動力――T(ツングース)鉱。1908年、ツングースカに落下し大爆発を引き起こした小惑星は、欠片一つで一つの街を消滅させるほどのエネルギーを持っていたのであります。このエネルギーを利用し、艦首から発射された黒い球弾は迫る砲弾を分解、そのままナチスの秘密基地を文字通り押し潰すのでした――まさに天空の覇者!

 そしてベルリンではあのヒトラーが、執務室である人物と対峙していたのですが――いま向かうところ敵なしのはずのヒトラーが冷や汗をかいて恐れるその相手は、一人の美しい青年。彼こそは真のナチス総統、真のヒトラー――あのチョビ髭は影武者に過ぎなかった! というまことに大胆な展開で、序章は幕を閉じることになります。


 そしてそれぞれの想いを胸に、改修のためにイタリアに向かうZに乗り込んだ天馬、ウェル、アンジェリーナと、天馬の飛行機の師・ギヌメール隊長。実は隊長とネモは先の大戦では宿敵同士だったなどと渋い因縁も描かれ、それまでとは一転静かに物語が進むと思えば、アルプス越えのルートに入ったZを襲う黄色の機体に黒い縞の複葉機の群れ――空賊・タイガー軍団。
 さすがにそのネーミングはいかがなものかと思いますが、しかしアルプスの複雑な気流に乗って襲いかかるその腕は確かで、Zに取り付いた一機によりアンジェリーナは奪われてしまいます。当然その後を追う天馬ですが、恐るべきブーメラン剣を操る敵パイロットは彼女を連れ去ってしまうのでした。

 ……ブーメラン剣!? とここで作者のファンはガタッとなってしまうのですが――宇野作品でブーメラン剣といえば、本作に並ぶ作者の代表作『キャプテンキッド』で大活躍した主人公のライバル兼相棒・死神ジョーカーの得物。これはもしやと思えば、この謎のパイロットの名はJ、そしてその素顔もジョーカーに瓜二つ!
 「大海賊だった爺サンの名にかけて」という台詞があるところを見るとそういうことなのでしょう。ファンにとっては嬉しいサービスであります。(しかしバイキング王国の姫君と結ばれたジョーカーの孫がアルプスで空賊をやっているとは、何があったのか……)

 とはいえ、そんなJが依頼とはいえナチスの片棒を担ぐのは解せぬ、と思っていれば、実は部下の空賊たちがナチスに捕らえられ、人質にされていたという事情。しかし解放された人質たちは直後に体中から血を吹き出し、肌を爛れさせて悶死、唯一生き残った男は奇怪な怪物に姿を変え、Jの弟分の少年・ルーに噛み付いてしまうのでした。
 謎の高熱を発して倒れたルーを救うためにスイス国境のナチス研究所に向かうJ。そしてJを天翔馬号で追ったものの墜落し、ルーに助けられていた天馬とウェルもJの助太刀のため、そして同じ研究所に連れ込まれたというアンジェリーク救出のために、共に研究所に殴り込みをかけることになります。

 もとはいえば、アンジェリークがゲシュタポ将校に追われていたことから始まった本作。その際、自分に噛まれたにもかかわらず彼女が異変を起こさなかったことに将校は驚き、そして真のヒトラーも彼女を特別視していたのですが――研究所でJと天馬を待っていたのはその将校であります。
 J怒りのブーメラン剣に斬られたはずが、次の瞬間には復活、左腕を大蛇に変えて襲いかかる将校。これぞ「獣性腫瘍」の力と嘯く将校に、Jに代わって対峙する天馬を苦戦を余儀なくされますが――ついに天馬が抜き払った愛刀――流星の剣こと陸奥守流星の一閃が敵の不死身の肉体を両断! しかし天馬の顔には喜びよりも憂いの色が濃く――彼の重い過去を想像させつつ、次巻に続きます。


 と、派手な空中戦が展開されたドイツ編とは少々趣を変えて、等身大の人間(ではないのもいますが)同士の戦いがメインとなったこの巻の後半。
 実は本作は戦いが三つのレイヤーに分かれて描かれるのが大きな魅力となっているのですが、この等身大戦はまさに作者の自家薬籠中のもの。ここは作者の達者なアクション描写に注目したいところであります。


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