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2018.06.12

吾峠呼世晴『鬼滅の刃』第11巻 遊郭編決着! その先の哀しみと優しさ


 ついにアニメ化決定、連載中の新章も絶好調と、脂の乗り切った状態の本作。この第11巻では、ついに真の姿を現した上弦の陸と、炭治郎・善逸・伊之助そして宇髄の死闘の決着が描かれることになります。長い長い戦いの末に生き残った者は、そしてそこに残ったものは……

 遊郭に潜む鬼を求め、宇髄の指揮の下に潜入した炭治郎たち三人。はたしてそこに潜んでいたのは遊女に化けた上弦の陸・堕姫――彼女に単身挑む炭治郎は、禰豆子の助けもあって、宇髄が駆けつけるまで奮闘を続けます。
 しかし堕姫の中から現れたのは、もう一人の、そして真の上弦の陸・妓夫太郎! 堕姫の兄であり、彼女を遥かに上回る戦闘力を持つ相手に宇髄も大苦戦、善逸と伊之助が駆けつけても、圧倒されるばかり。桁外れの相手に徐々に追いつめられていく四人の運命は……

 前巻の紹介でも述べましたが、とにかく戦いの長さと敵の底知れぬ強さに驚かされるばかりだったこの遊郭編。堕姫一人にあれだけ苦戦したと思いきや、さらにもう一人、それ以上の力を持つ妓夫太郎が出現というのは、もう反則と言いたくなるほどであります。
(特に妓夫太郎の攻撃手段が、一撃くらったら即死の猛毒というのがズルい)

 何しろ堕姫戦が始まったのは第9巻から。それからこの第11巻のほとんど全てを使ってようやく決着がついたのですから、その戦いの激しさを思うべし。
 読んでいるこちらも大変だったのですから、戦っている方はもっと大変だったに違いない――という変な感想はさておき、雑誌連載を追っていた時は、まだ続くのか、今度こそ誰か(具体的には宇髄)死ぬんじゃないかと最後の最後までひたすらハラハラさせられ通しでありました。

 それでも飽きることなく読まされてしまう――雑誌連載時でもこの単行本でも――のは、やはり刻一刻変わっていく状況を巧みに捉えて描いてみせる画の力が一つ。
 そしてそれ以上に、戦いに加わっている者たちの感情の揺れを掴み、読者の心に叩きつけてくる人物造形と描写の妙によるところが大きいと感じます。

 特にこの戦いの終盤――鬼殺隊側がほとんど全滅状態となった中からの大逆襲は、それまでの絶望が大きかっただけに、それでもなお立ち上がり、突っ走る面々の気合いがビビッドに伝わってくる名シーン。
 いかにも少年漫画らしい展開ではありますが、やはりこちらが見たかったものをきっちりと見せてくれるのは、実に気分のいいものであります。

 しかし、この巻において描かれるものは、戦いのみではありません。戦いがようやく終わった後――その後にこそ、本作の本作たる所以の物語が待ち受けているのですから。
 死闘の末についに倒れた妓夫太郎と堕姫。首を断たれ、もはや崩壊を待つのみの状態で、敗北の責任を擦り付けあう二人の前に立った炭治郎の行動とは、言葉とは……

 本作の主人公である炭治郎の魅力は、その心身の強さだけではありません。彼を彼たらしめるものは、その優しさ――憎むべき鬼すら、その最期において悼んでみせる、その想いの広さであります。
 これまで幾度も炭治郎の優しさに泣かされてきたものですが――今回もその優しさ、というよりそれを媒介して描かれる妓夫太郎と堕姫の過去がこちらの心に響くのです。

 遊郭で生まれ、育ち、鬼と化した二人。その彼らの過去に何があったか?
 その詳細は伏せるとして、決して許せぬ彼らの所業をこれまで嫌というほど目にしてなお、彼らに対する悲しみを覚えるほどの内容であることは間違いありません。
(それにしてもこの回想シーン冒頭、堕姫の本名とその由来が明かされた時には、頭を一撃されたような衝撃を感じたものです)

 彼らの所業に共感することはできません。しかし何故彼らがそうせざるを得なかったのか――それを理解することはできます。
 炭治郎の真っ直ぐな瞳を通じて、人でいられなかった鬼たちの悲しみを描いてきた本作は、ここでもそれを鮮烈に浮き彫りにしてみせるのであります。

 ……と、そんな感動をもたらす一方で、あんまりといえばあんまりな描写で笑いを取ってくる振れ幅のとんでもない大きさも、本作の油断のならないところ。
 その一方でラストでは鬼の首魁・鬼舞辻無惨の居城に舞台が移り――と、そこで猗窩座が登場する時点で変な笑いがこみ上げてくるのですが、それはさておき――まだまだこの先も盛り上がりは続くのであります。

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