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2018.06.04

吉川景都『鬼を飼う』第4巻 鷹名を待つ試練と彼を見守る者


 この世のものならざる奇妙な能力と姿を持つ存在「奇獣」――帝大生・鷹名を中心に、奇獣を巡り展開してきた本作もいよいよ佳境に入ってきました。奇獣に惹かれる者、奇獣を商う者、奇獣を利用せんとする者――様々な人々の思惑が幾重にも絡みあった先に、ついに己の力を知った鷹名は……

 奇獣商・四王天と不思議な少女(実は奇獣)・アリスと出会ったことをきっかけに、これまで次々と奇獣にまつわる事件に親友の司とともに巻き込まれてきた鷹名。
 実は奇獣を強く惹きつける血を持つという、鷹名自身も知らない(封印されていた)秘密を知った四王天は鷹名を奇獣商にするべく画策し、一方、司はその秘密を胸に秘めて親友を見守ることになります。

 一方、東京では奇獣絡みの事件が次々と発生し、四王天や特高の秘密部隊を翻弄するのですが――それらの陰で糸を引いていたのは、奉天に潜み、奇獣の軍事利用を企む陸軍将校・宍戸なる怪人物。
 四王天や鷹名たちにも目を付けた宍戸の真の狙いは何か、そして四王天の目論みの行方は……


 そんな前巻の展開を受けたこの第4巻のメインとなるのは、四王天によって、本人も知らぬ間に奇獣商になるための試験を受けることとなった鷹名を巡る物語であります。

 人知を遙かに超え、時に(いやしばしば)人の命を危険に晒すほどの異能を持つ奇獣。そんな奇獣を商う者が、常人であるはずもありません。
 確かに、四王天をはじめとして、これまで作中に登場した奇獣商とその関係者は、いずれもただ者ではない連中ばかり(今回も妙なキャラが……)。しかしその血を除けばごく普通の青年である鷹名にその任が勤まるのか――?

 それでも四王天の企みは着々と進み、鷹名はいつの間にか最終試験に挑むことになるのですが――そこで思わぬアクシデントが発生、鷹名の運命を大きく変えることになるのであります。

 その一方、大陸では、これまで東京で次々と奇獣事件に巻き込まれ、神経衰弱気味の新聞記者・天久が、一連の事件の正体を探ろうと孤軍奮闘する姿が描かれることになります。
 奉天に暮らす貧しい姉弟と知り合った彼は、その繋がりから奇獣の存在に近づき、奉天の奇獣商の存在を知るのですが――これがまた、妖艶な美女というその外見に似合わぬ危険極まりない妖人。

 彼女こそは宍戸の真意を知り、彼に奇獣を与えてきた存在――その意味ではいきなり当たりを引き当てた天久ですが、しかし凶悪な奇獣を前に危機に陥ることに……


 と、鷹名を中心としつつも、これまで同様様々な視点から展開することになるこの第4巻。そこで描かれるのは危険な奇獣を巡る、これまで以上にシリアスな伝奇的な物語が中心であります。

 しかしその一方で、緊迫した物語の合間にも、どこかほのぼのとした、ある種ユルい雰囲気も漂うのが、また本作らしいところでしょう。
 それはあるいは、日常ものやエッセイ漫画を得意とする作者の作風に依るものかもしれませんが――しかし一見本筋の流れとは水と油に見えるそれは、物語に日常の空気を吹き込むことで、奇獣たちの非日常性をより強めるものとして、効果を上げています。

 それはまた、異形の奇獣が跳梁し、そしてその奇獣に様々な形で囚われた人々が数多く登場する物語の中でも、ごく普通の人間の存在が忘れ去られていないということでもあります。
 そしてその普通の人間の代表が、司であることは言うまでもありません。

 何の特殊な能力もなく、ただ鷹名の友人であったというだけで一連の事件に巻き込まれることとなった司。しかし彼は、ただ鷹名の友人であるというだけで、事件の渦中に飛び込み、奇獣と対峙してきました。
 そんな彼の存在がなければ、とうに鷹名は「向こう側」の者となっていたかもしれませんし、少なくとも本作は、今とはずいぶん違った雰囲気の物語となっていたのではないでしょうか。

 ごく普通の人間がいるということが、鷹名にとって、物語にとって、そして我々にとってどれだけ救いとなるか――鷹名が試練の果てに新たな一歩を踏み出し、物語が佳境に入ったと思われる今、改めて再確認させられたところであります。


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